第12章 機能回復訓練
「うむ!共に鍛錬してきてそんなことはないと、俺はわかっている!しかし、それは他の者に言葉で伝えられるものではない」
杏寿郎は心ではわかっていても、他の柱を説得するだけの言葉や証拠がなければ、事態をややこしくするだけだということを理解していた。
それでも、自分の言葉で説得できなかったことを悔やんでいる。
『あそこで杏寿郎様がお話してくださっても、身内だからと誰も耳を貸してくださらない様子でしたね』
苦笑しながら、何とか杏寿郎のせいではないということを表そうとした。
『いいのです。これからわたしが頑張れば、みなさん認めてくれます。それだけです。あの今日の炭治郎のように努力あるのみです!』
強く強くそう言い切った。
いえ…わたしはあなたを救えればそれでいいのです
他の者に認められなくても、あなたにさえ、信じてもらえていれば
そして、信じてくれているということがしっかり感じられて、それがわたしの支えとなっている
『杏寿郎様だけがわたしのことを…いえ、杏寿郎様!わたしこれまで以上に頑張るので見ていてくださいね』
うっかり、杏寿郎だけが自分のことを信じてくれていればそれでいいなんて、言いかけたが、そういう言い方は杏寿郎を困らせるだけだろうと思い、やめた。
「…うむ!愛は俺の継子だからな!これまで以上に世話をしてやる。ついてきなさい」
燃えるような瞳が一層、キラキラと輝いた。
『はい!』
元気よく返事をすると、杏寿郎は、ん、とうなずき、あっ!と何か思い出したような仕草をした。
「そうだ。愛、初任務ご苦労だった。よく、生きて戻ってきた」
眉を少し下げ、目を細めてとびっきりの優しい笑顔で、よしよしと頭を撫でる真似をした。
その表情と仕草に愛は心が高鳴った。
『…ご帰還の際は、もう一度今の言葉を言って、頭を撫でてほしいです』
杏寿郎が甘やかしてやろうと言わんばかりの表情だったので、思わずねだってみた。
杏寿郎は少し目を見開き、そして笑った。
「うむ!初任務の話も聞かせてくれ」
そう言って、手を振り、木から降りた。
杏寿郎が米粒ほどの大きさになるまで見送った。
愛はふらふらとベッドへ戻り、がんばらなきゃなぁと思ったところで意識が遠のき始めた。
思った以上に疲弊しているようだ。