第8章 告白
最終選別中、何とか水分だけは摂れていたが、まともな食糧は4日目で終わった。
味付けの薄いお粥がご馳走に見える。
『おいしい…おいしい…』
この時ばかりは師範と同じように同じ言葉を繰り返すのみであった。
「うむ!もう大丈夫そうだな。ゆっくり食べて、湯あみでもしておいで。今日はゆっくり休むように!」
そう杏寿郎は言い残して、部屋を出ようとする。
『あ、ありがとうございます。杏寿郎様…ただいま戻りました!』
杏寿郎の背中に愛は言葉を掛ける。
「うむ!おかえり!よくやった!それでこそ、俺の継子だ!」
振り返り、誇らしいという気持ち一杯の笑顔で愛を労う。
『杏寿郎様、少しお時間よろしいですか?』
意を決したようなシャキッとした顔になる愛。
「む?…話か?」
『はい、帰ってきたらお伝えしたいことがあると言ってました。その話です』
杏寿郎は部屋から出て行こうとしたが、愛のそばに寄って、腰を下ろす。
「なんだ?言ってごらん」
久々に見た杏寿郎様の笑顔が先程から眩しい。
かっこよすぎて、見惚れてしまう。
いやいや、しっかりしろ。
しっかり伝えたい。
『あの…あの…』
愛は言葉に詰まったが、自分の顔をバシバシ!と叩き
『杏寿郎様!今までお世話になりました!この御恩は…この御恩は…忘れません!』
目に涙一杯溜めてそう紡ぐ。
杏寿郎は途端にうろたえた。
「(今まで世話になった?ここを出る気か?)愛…それは…ならん!ならん!俺の下にいろ!」
杏寿郎は無意識のうちに愛を抱きしめた。
「ならん、愛は俺の継子だ。俺だけの継子だ!」
愛を抱きしめたまま、子どものように駄々をこねる。
『…へ?杏寿郎様?もちろん、わたしは杏寿郎様の継子ですよ』
対する愛はこの状況がよく飲み込めていない。
「え?いや…ここを出ようと思ったのではないのか?」
様子がおかしいと抱きしめるのをやめ、少し離れた。
『へ?あの、御恩は忘れません。これからも精進いたしますので、ご指導よろしくお願いします…と言うつもりでした』
杏寿郎が固まる。
「む、む、そうであったか。早とちりをした。穴があったら入りたい!」
少し頬をそめ、腕組みをする杏寿郎。