第1章 第一章 はじまり
「けけけけ、いいところに。ちょうど腹が減ってたんだぁ!」
と人ならざるものは愛に襲いかかる。
『ひぎゃあぁぁー!!』
わけのわからない叫び声をあげながら田んぼの方へ転がる。
「おん?すばしっこいやつだ。でも、次はねぇ」
またもや襲いかかる。
ガンッ___
愛は田んぼの中に置き忘れてあったのであろう鍬を無我夢中で振り回す。
一発何とかカスったようだ。
「ふーん、痛かったよぅ〜お嬢ちゃん。」
思わぬ反撃に一瞬たじろぐが、痛くもかゆくもなさそうな鬼が皮肉を込めてニタニタと笑う。
圧倒的弱者に対してとても余裕ぶった様子である。
その間に体勢を立て直す愛。
スッと鍬を構える。
本当はとても怖い。
でも、こんなところで死ぬなんて死んでもやりきれない。
こんなところで死んではいけない!
挫けない!!
大きな黒い瞳をギンっと見開く。
考えろ!考えるんだ!
この鍬では鬼は殺せない。
何とか逃げる方法は__
考えがまとまる前に鬼が飛びかかってくる。
とにかく、どこでもいいから切るしかない。
ガキン___
鬼に向かって真っ直ぐに振り下ろされた鍬は鬼に呆気なく抑え込まれる。
「遊びは終わりだ。」
やられる、絶望を感じた瞬間__辺りが明るくなった。
「炎の呼吸、壱の型 不知火」
もう暗くなったはずなのに、それでも分かる炎のように燃える髪色。
散々聞いたことのある大好きなあの声。
『煉獄…さん…』
消え入るような声でつぶやく。
「大丈夫か!君!!」
大好きな人の声が聞こえる。
ありえない、ありえない。
立っていられなくなった愛はその場にへたり込む。
炎の瞳と目が合う。
「よく頑張ったな。ケガはないか?」
頭が混乱して、何も言葉が出ない。
あ、もう無理。
安心感か高揚感からか愛は気を失ってしまった。