第7章 最終選別
『ここが、藤襲山…なんて見事な藤』
むせ返るような藤の香りと見事な咲きっぷりに感嘆の声を表す。
朝早く出発したのに、もう夕暮れ。
これからどんどん夜深くなっていくだろう。
鬼の時間だ。
自然とごくっと喉が鳴る。
始まる。最終選別が…
辺りを見ると集まったのはざっと20人程度。
借りた日輪刀を無意識に握る。
うん、大丈夫。
生き残ってみせる。
そこにある確かな物に手を触れ、帰りを待つ者のことを思う。
それが幾分か愛を落ち着かせた。
「皆様 今日は最終選別にお集まりくださってありがとうございます」
お人形にしか思えない風貌の子らが二人出てきた。
最終選別のこと、合格条件を話す。
七日間、鬼がいる中で生き残ること。
うん、大丈夫。
ここは知ってる。
始まった…!
みんな一斉に駆ける。
負けじと愛も走る。
とにかく東へ
先に日が昇る東へ
考えてることは皆同じなようで、進行方向に数人の人影が見える。
前から人影…
ザザッと足を止める。
「にくぅ…にくぅ…」
気味の悪い顔をし、よだれを垂らしながらふらふらと小走りでこちらへ向かってくる。
「…ふぅ…」
一息呼吸を置いて、息を整える。
こちらに来たとき、鬼に何も通用しなかった苦い思い出が蘇る。
前と同じように全く効かなかったら?
首を斬り落とせなかったら?
…否!愛は強い!胸を張れ!
大切な人の声が心に響いた。
そう、落ち着いて。
今までの厳しい鍛錬を思い出すのよ。
わたしなら…できる!
自らを鼓舞させ、刀をぐっと握り、型の体勢へ入る。
「全集中…炎の呼吸 壱の型 不知火」
一気に間合いを詰め、鬼の首を横に斬り落とす。
手に嫌な感触が残った。
切れた、初めて切れた
今までやってきたことが報われた
でも、でもやっぱり胸の奥が苦い
この鬼も人間だったんだもの
もちろん、この手を緩めることはないけれど
初めて鬼を切った達成感もあったが
なんとも言えない思いも残った。
しかし、思いにふける間もなく、次の鬼がやってくる。