第6章 最終選別前夜
「いや、こんな姿で情けないんだが…伝えたいことがある。」
いつもより少し小さく頼りなく見える杏寿郎にきゅっと胸が締め付けられる。
あぁ、この人と離れたくない。
「実は、迷っていた。そのことについて、宇髄に相談していた。」
『何をですか?』
杏寿郎はポツリと話し出す。
姿勢を正して愛は耳を傾ける。
「うむ…」
言いにくそうに一旦切る。
それがもどかしいが、こんな時間も嫌いではない。
かわいい…。
たまにはこんな杏寿郎様もいいな。
明日の緊張がどっかいっちゃった。
「愛には才能がある。俺の目に狂いはなかった。」
『え!あ、急に何を。』
愛は急に褒められ、あたふたとする。
「うむ、これから鬼殺隊を支えていく一員となるだろうと誇らしい限りだ。」
顔を赤くして俯く愛。
「だが、最終選別は厳しい。合格者は限られており、何が起こるかわからない。もちろん、愛の力を信じていないわけではない。ただ…」
酒のせいか、いつもより勢いも弱く、よく考えて言葉を選んでいる。
「愛を危険に晒したくないという思いもある。最終選別もかなり厳しいものになるが、合格すれば、そこからは実戦ばかりだ。危ういこともあるし、怪我をすることもある。万が一、のこともある。」
一旦、言葉を切る。
「そう思ったら、何とも言えない気持ちになって。俺が鍛えた継子だから、信じている。信じてはいるのだが、その…」
『杏寿郎様』
愛は杏寿郎の手を両手で包み込み、ギュッと握る。
『杏寿郎様がわたしに目をかけていただいて、ご心配までいただいて。嬉しい限りです。』
スッと杏寿郎の目を見据える。
『行って参ります。必ず、貴方の元へ帰ります。』
愛は力強くそう宣言する。
「はは、愛には敵わないな。酒に任せて、柄にもないことを言った。」
杏寿郎は一度目をつぶり、カッと目を見開く。
「うむ!炎柱の継子として、胸を張れ!愛は強い!俺は信じる!…帰りを待っている」
愛にそう、叱咤激励を贈る。
最後の一言はとてつもなく優しい口調であった。