第6章 最終選別前夜
「…うーん…」
『杏寿郎様、大丈夫ですか?うーん、これは一人でお部屋までお連れするのは無理そうだ。』
そう思い、千寿郎くんを連れてこようとすると、ふいに着物の裾を掴まれた。
「愛…うぅん、い、かないでくれ…」
ボソボソと杏寿郎の声が聞こえた。
『え?でも、こんなところにいたら、風邪を引きますよ…』
「兄上!」
血相をかえて、駆け寄ってくる千寿郎。
ただ酔っ払っているだけだと気付いて、ほっと胸をなでおろす。
『二人でお部屋で運びましょう。』
「そうですね。」
二人で両肩を抱えて、何とか部屋で寝かせることができた。
「おぉーい!千寿郎!!」
部屋の奥から槙寿朗の声が聞こえた。
「あ、すいません。父上がお呼びです。」
『こちらは大丈夫です。わたしが水など持ってきますので。』
「ありがとうございます。」
そう言って、二人はそれぞれの場所へ行く。
水を持って、杏寿郎の部屋へと着いた愛。
「うーん、愛か?」
杏寿郎は先程よりは幾分か落ち着いたようだ。
『はい、お水です。飲めますか?』
「うむ、すまない。世話をかける。」
『いえ、わたしの方がいつもお世話をおかけしていますので、何のことはありません。』
杏寿郎が起き上がれるように背中を支えながら愛は答える。
『どうされたのですか?こんなに酔っ払われている姿を見るのは初めてです。』
「…いや、その」
いつもの快活さはなく、歯切れが悪い。
『わたしは、明日早く出発しますね。杏寿郎様はゆっくりお休みくださいませ。』
では、と言って出ていこうとする愛。
「愛…待ってくれ。」
『どうされました?』
先程と同じように着物の裾を引っ張られる。