第9章 父親
:「いいえ、真逆ですよ。あなた方が言ってることは。今までに私が診てきた者たちの顔は全て覚えています。最期の表情も全て。患者を救えていい気に?なれるわけがない。治せずに死なせてしまった人たちから改善点を学び、同じ症状の者に改善した治療を施す。こうして治せる病気は増えていく。治せなかった者のおかげで、私は治せているのに、良い気になどなれるはずがないんですよ。」
街人A:「全員なんて覚えてるはずが…」
そこへ遊もやってきた。
遊:「患者のことを思っている医者ならば皆、覚えている。自分が取りこぼした命のことは尚更忘れない。」
街人B:「じゃあ、お前が金を取らないで診察する理由はなんなんだよ、評判を上げるためだろうが。」
:「医者は神じゃないですから、絶対はありません。もし、私の判断が間違っていたら、私の処方した薬で治らなかったら、お金などとって良いわけがない。だから治った後に払ってもらいます。でも払える額しか払ってもらわないのは、その返済のために死なれたり、体を壊されたりしては元も子もないからです。他に何か質問はありますか?」
街人A.B.C:「…」
:「ないようなので、失礼しますね。口は災いの元なので、あまり余計なことは喋らないほうが良いですよ。」
そう言っては蕎麦屋を出た。
遊:「もさっき医者は神じゃないと言っていたが、その通りだ。だから奇跡は起こせない。所詮救える者しか救えない。だが、医者なら皆、奇跡を願ったことがない者は居ない。医者は誰よりも命の重みを知っているということを、あなた方には覚えておいていただきたい。」
遊も蕎麦屋を出ると、煉獄と不死川も出て行った。