第7章 鬼舞辻無惨
:「前に私に兄がいたことはお話ししましたよね。その兄が死んだ時、父は家に帰ってきませんでした。その時は、仕事が忙しいのかもしれないと自分に言い聞かせてたんです。」
杏寿郎は黙って聞く
:「でも、その後母が肺炎になりました。それでも父は帰ってこなかった。ついに母も亡くなりました。だけど…」
杏:「その時も帰ってこなかったのか。」
:「はい。それから私には父はいないものとして、生きてきたんです。」
杏:「そうだったのか。」
:「でもだから、怜のことをほっとけなかったんだと思います。怜も、父親に捨てられた身だから。」
杏:「君は、さっき怜の心を治せない原因は自分にあると言ったな。」
:「えぇ。」
杏:「そんなことはない。怜はに会えたことで、君にかけられた言葉で何度も救われたはずだ。怜の心の傷を癒しているのは間違いなく君だ。安心しろ、自信を持て。」
:「私は杏寿郎さんの言葉に何度も救われています。不思議ですね。杏寿郎さんの言葉は私を安心させてくれる。過去のことを教えた相手も、杏寿郎さんが初めてなんですよ。」
杏:「なら、君の初めてを全て俺にくれないだろうか。」
:「…杏寿郎さん…今、なんて…?」
杏:「君が好きだ。冷静な判断を失い、勘違いをして遊に嫉妬してしまうほど、が好きだ。」
は泣き出した。だが、さっきの涙とは違う。
杏:「よ、よも…すまない、嫌だったか…今のは全て…」
:「違います…嬉しいんです。すごく。だって、慕っていた方が、こんな私を好きだと言ってくれた…こんなに嬉しいことは…」
杏寿郎はの言葉を最後まで待たずに抱きしめた。
杏:「すまない、辛い思いをさせたな。」
:「ほんとですよ…。ただ、杏寿郎さん、少し待っていてはくれないでしょうか。」
杏:「遊のことか。」
:「えぇ、遊との間に何もありませんが、許嫁の約束はまだ終わってなかったようなので、それを破棄した際お返事をさせてください。」
杏:「あぁ、いつまででも待とう。」
はお礼を言い、2人はお互いの想いを確かめ合ったのだった。