第4章 煉獄邸
はずだった。しかし叩いていたのは怜の背中ではなく、の背中だった。
:「大変申し訳ございませんでした。」
は怜の前に土下座をしていた。
その光景に怜はもちろん、他の皆も驚いていた。それはあまりにも一瞬の出来事だったから。
女:「あぁぁぁぁ!許さない!絶対!私たちは明日結納するはずだったのよ!今日あなたが助けてくれたら!明日結婚できたはずなのに!」
そう言いながらの背中を叩きつづける。
怜も他の皆も流石に止めようとした時の声が響いた。
:「止めなくていい!」
殴られている者にそう言われたら皆は立ち尽くすしかなかった。
:「あなたの婚約者は立派でした。明日結婚するはずだった人の死因は不慮の事故から人を救うため。でもそれ故に誰も責めることができない。そんなのは余りにも、酷すぎる。だから私にその怒りを、悲しみを心ゆくまでぶつけてくれて構いません。それであなたが前を向けるなら、私は構いません。」
がそう言うと、女性は叩くのをやめ、また泣き崩れた。
泣いている女性には立ち上がりまた声をかける。
:「おばあさんは、今のところ助かりました。でも、まだ安心は出来ません。高齢であるために、普通の人より危険な状況です。ですが、あなたのご主人が自分と引き換えに助けた命です。だから何としてでも私が生かします。絶対に死なせない。」
そして、は男性の遺体を綺麗にし、女性をタクシーに乗せて2人を返した。
は何かあったらすぐ呼んで欲しいと、千寿郎に老婦人を見ているよう言った。千寿郎は了承し、老婦人の元へ行った。
:「怜。」
は怜の名前を呼んだ。無表情なまま、低い声で。