第2章 0.
私は風雷暴のハルカ。S級ヒーロー、順位は17位。
元々ヒーローとは無縁の、むしろ助けられてばかりの立場だった。特にゾンビマンに。
ゾンビマンは私と同じく実験体だった。出会いは実験体同士、ゾンビマンこと66号の手に引かれ逃げ出した後ははぐれ、10年経って再会が出来た。
10年前に施設から助け出したヒーローは本当のヒーローになっていて、そのヒーローにヒーローになる事を勧められて私も同じくヒーローになれた。
たくさんの人を助けた。
たくさんの怪人を狩った。
私は実験体77号としての能力を使って十分に戦えていた。
Z市内、危険区域の自宅、屋上にて。
今は私の首元に僅かに納まる存在…彼女、風神は実験中に脳内にチップを埋め込まれ正常ではない私であった。戦いの中でチップは壊れ、最期は正気になったようだった。
その戦闘中に私は勘付いた。
ここは本当に静かな屋上だ。考え事がゆっくり出来る。
この地域は私と隣人以外は住んでいない(はず)で、怪人が良く出没する。
何も起こっていない今は自然の風が頬を撫でる。その風を撫でるように私は左手を顔の前に出し風を吹かせる。自然の風はくすぐったそうにピュウ、と音を立てた。
──悩んでいた。自分の力不足を感じていた。
結果的に勝てはした。勝てはしたが、全力で自然の力を借りてまでやったことだった。
雷を誘導し勝てた後は、力尽きて体が言うことを利かなくなった。皮肉にもそんな私を助けたのは正気になったオリジナルの私。
風神が正気じゃない時に出した竜巻は私にはどうしようも出来なく、他のヒーローが対処した。
悔しい。
正気じゃない風神が私は未完成と言った。
悔しい。
しくじりだといった。
悔しい、悔しい。力が足りない、完成品には及ばない。
完成品で風神の様なら、未完成なお前は人間だから良いとサイタマは言ってくれた。その時は嬉しかったけれど、もしもチップの埋め込まれていない風神だったらどうなのか。外見や脳内にチップを入れずに強くなれたのだろうか?
オリジナルは死んだ。風に揺られ遺骨の入ったペンダントが死を主張する。
私はオリジナルじゃない。クローンだから?
目の前の左手をゆっくりと拳にし、握りしめる。
『強くなりたい。強くなって守りたいよ…』
風は一度強く吹いた。小さく漏れた私の言葉をなにもない空へと運んでいくように。