第1章 壱
『っ…あ…あぁ……うわぁぁぁっ!!!』
悲痛な悲鳴が静かな森に響き渡る。
息を吸おうと必死に藻掻いてもひゅっとした空気が喉を切るだけ。
ゴロリと転がる仲間だった多くの死体。
目の前で助けを求めた仲間の亡き姿に悲鳴を上げずにはいられなかった。
身体が己のものとは思えないほどガタガタと震える。
鬼殺隊士になってから初めての任務だった。
多くの同期と鬼の討伐に向かったものの思いのほか強い鬼だった。
未だに何色にも染まらぬ己の刀をキツく握りしめる。
小刻みに震える手ではなかなか上手く握れない。
『はぁっ…はぁっ……私が…やらなきゃ……』
よろけながら立ち上がる、恐ろしい現状に震えが止まらない。
目の前の鬼は下卑た笑みを零しながら隊士を貪る。
その光景には吐き気すら込み上げてくる。
?「彩羽!!!逃げろ!!!俺達にはもう無理だっ…鎹鴉に応援を頼んだ!柱がきっと来てくれる!!!」
先輩隊士が私の腕を引き森から駆け出す。
虚ろな瞳で己の手を引く隊士を見つめる、鬼殺隊士になったというのに未だに逃げる事しかできないのか。
?「炎の呼吸 壱ノ型 不知火!」
『っ……な、に…?』
凄まじい轟音と共に風が吹き、目に見えぬ早さでなにかが横切っていった。
私の腕を引いていた隊士も足を止め二人でその場を振り返る。
目を疑った、先程まで恐れていたいた鬼が跡形もなくいなくなっている。
月明かりが指す森に炎のように美しい髪を靡かせ、赤く色づいた刀を鞘に収める一人の隊士がそこにいた。
紅音の虚ろな瞳に彼の立ち姿が美しく見えた。