第9章 祈り
「さ、悟は…」
出た声は、自分で思ったよりも掠れていた。これを言えば、後戻りできなくなると分かっているが。この機会を逃せば、もう聞けないかもしれない。
グッと、自然と手に力が入る。
「私のことが…その、好き、なの?」
五条の目線から逃げたがる自分を必死に抑えて。問いかけたなまえの言葉を耳にして、五条は一瞬、その青い瞳を大きく見開き。
そして、眉を寄せた。
「は…?お前それ、マジで言ってる?」
不快な感情を隠そうともしないその声に、怯えた様になまえの肩が一瞬揺れた。だが、五条にしても、今までの自分の行動を否定された様に感じたのだろう。強い視線のまま、彼女を追い詰める。
「俺、言ったよね?本気だって。冗談だとでも思ったのかよ」
「だ、だって!」
このままではいけないと、なまえも怯えて引っ込みそうになった声を張り上げる。
「だって…好きだとか、実際には、言われてないし…!悟は、いつも半分冗談みたいに言うから…分かんないしっ…私も、自信、ないし…」
自分で言って、ああ、そうだ、私は自分で自信が無かったのだと、理解した。五条が、自分を好きになってくれる、なんて。
尻窄みに消えていく言葉を紡いで。項垂れる様に下を向いた彼女を、五条は目を見開いたまま見ていた。そして、自分が、一番大切なことを言っていなかったのだと気づき、片手で顔を覆って、ため息を吐く様にして、大きく息を吐き出した。
それに反応して、また肩を揺らす彼女を、無意識に抱きしめようとした腕に気づき。ギュッと拳を握ることで止める。
「……俺だって、なんでお前なのか不思議で仕方ないんだよ。別にタイプじゃないし、饅頭に唐辛子仕込む頭の悪さだし」
「唐辛子は頭悪い関係なくない…?」
あれは復讐だからと、こんな時でもきっちり突っ込むことを忘れないなまえに、どー考えても頭悪いだろと言って、五条が握っていた彼女の指を解いて、代わりにその腕を掴み直す。
それに反応して、恐る恐る顔を上げた彼女の視線の先に、予想外に顔を赤くした彼がいて。緊張しているのだと、なまえにも伝わった。それが伝染して、指先が震える。
「…好きだよ、なまえが。」