第9章 祈り
「マジで聞きたい?」
「え…なに、怖い理由なの?」
「そーかもね」
「えぇ…」
あなたの背後に何かいる系だったらどうしようと思うが、知らないままというのも怖い。そもそも呪い以外にやはりそういうのはいるのだろうか。呪いだっているんだから、いるのかもしれない。
ごくりの唾を飲み込んだ彼女は、聞かせてくださいと五条に頷いてみせる。心なしか、五条のなまえの指を握る手に、力が入った気がした。
「お前の顔見るとさ、」
「うん」
「ちょくちょくキスしたくなるんだよね」
「………へ?」
「あと、うなじとかもけっこうやばい。噛みたいとか思う」
途端に、五条に掴まれている指が熱を持ったと錯覚した。波の様に動揺と恥ずかしさが押し寄せて、ぶわりと顔が赤くなるのを止められない。まさか、突然そんな話になると思わなかったのだ。
あかさらまに動揺するなまえを目にして、寒さに紛れる様に五条の顔も僅かに赤く染まる。
「な、ななな、何言って、…」
「仕方ないでしょ。俺も健全なオトコノコなんだから」
「えっ、いや、へ?」
何か言いたいのに、語彙が極端に少なくなって、言葉が見つからない。それはつまり、そういう対象として自分を見ているということなのかと、思ってまた顔が赤くなる。無意識に体を引こうとして、掴まれた指がそれを許さなかった。
声もなく、パクパクと口を開け閉めするだけのなまえを、五条はまた、ジッと見つめた。その視線に耐えられず、なまえは思わず目を逸らす。
「で?」
「……っで?と、とは?」
「キスしていい?」
「ダメだからっ!」
何言ってんのと、いっそ可哀想なくらいに狼狽えるなまえ。即答で拒否され、不満気な顔をしてみせる五条を、今度はキッと睨む。
「そ、そういうのは、付き合ったりしてないと、ダメなやつだからっ」
「だーかーらー、今まで見てるだけにしてんじゃん」
偉くない?なんて言う彼に。
ごくりと、なまえの喉がなる。これは、今まで有耶無耶にしていたことを聞くチャンスではないだろうかと思ったのだ。