第9章 祈り
自分も同じ額の小銭を手に持って、ヒョイとお賽銭箱に投げ入れた。落ちていくそれを目で見送ってから、二回頭を下げて、手をパンパンと叩き目を閉じる。
しっかりとお祈りをしてから、ゆっくり目を開けて。隣からの視線を感じ、そちらを見れば、やはり、五条がジッとなまえを見ていた。
この、五条からの視線を感じるのは、一度や二度じゃない。夏の終わり頃からよくある気がすると、「何?」と目が合っても逸らさない五条に問いかける。
「熱心に祈ってたけど、何祈ったの?」
「え?まー、うん、色々だよ」
「悟と結婚したい!とか?」
「いえ、違います」
「じゃあ、悟と付き合いたい!かな」
「どうしてそんな自信満々なのかなぁ!?」
違うの?とぶー垂れた子供の様に見るから、売り言葉に買い言葉で、「違います!」と返してしまうなまえ。
だが、ここで付き合いたいですなんて言える猛者はいないと彼女は思う。こんな冗談混じりに言ってくるから、本気なのかそうじゃないのか分からなくなるのだ。
「悟は何祈ったの?」
そこまで人のを聞くなら、まずは自分から述べよとばかりに聞き返す。が、
「俺別に祈ることないし」
賽銭だけ入れたとひらひら手を振る五条。何でもないことのように言う彼に、なまえは目を大きく見開いた。言われてみれば、五条悟とはそういう人間だと納得してしまう。
「いっそ清々しいね」
「褒めてる?」
「2割ぐらいは」
笑って、指でチョキをつくって五条の目の前に出して見せる。その手を引っ込める前に、五条の手がなまえのその指を掴んだ。
「お前指冷たっ」
「ちょっ、そっちだって冷たいからっ」
不意打ちに、動揺してしまう。突然指を掴むのは反則だと五条を睨む様に見るが、それより先に、また彼はなまえをジッと見ていた。
「〜っ、何?」
「なにが?」
「っ、だから!なんか時々私のこと見てない!?気になるんだけどっ」
なまえに言われて、ようやく彼はそれを自覚したのか、目をパチパチと瞬きさせる。
一方でついに言ったぞとなまえは思ったが、同時に自分が自意識過剰な女のようにも思えて恥ずかしくなった。
考えるように、一度顔を伏せた五条は、ほどなくしてすぐにまた顔を上げる。