第9章 祈り
「うーさぶっ」
手を擦り合わせて、少しでも摩擦で熱を生み出そうとする。だが、あまり成果はなさそうだ。冷え切った指先をぎゅっと握りしめる。
「なんで俺達が買い出しなんか…」
「桃鉄で負けたからだよ」
毒づく五条に突っ込みを入れながら、暖かい部屋で良い笑顔で私たちを送り出した夏油と硝子の顔を思い出す。いや、よく考えたら、2人の目の下にはうっすらと隈が見えた。
それもそうだろう。何せ、クリスマスの夜から始めた桃鉄99年を、まさかの年明け前日の今日、ようやくクリアしたのだから。
ひどい日々だったと、なまえは遠い目であらぬ方向を見る。その目に、五条が持つコンビニの袋が目に入った。飲み物やらお菓子やら。詰め込まれたそれは、重そうに見える。コンビニで会計をした際に、彼は、なまえに特に深く考える間を与えず、それを持って歩きだしたけれど。
「悟、重くない?持とうか?」
「はぁ?これぐらい何でもねぇよ」
「そ、そう?」
どうやら彼の男としての矜持を傷つけてしまったようだ。本当に何でもなさそうに持っているから大丈夫だろう。
寒そうに首をすくめる彼の鼻の頭が赤くて、トナカイみたいで可愛いなぁと心の中でこっそり思う。
「あ、悟。神社あるよ神社」
ふと目に入った、こじんまりとした神社。思わず、五条の服の裾を掴んで引き留める。
人気はないが、年明け前だからかあかりが灯っていた。
「なに?お祈りでもする?」
「うん。せっかくだしフライング初詣しようよ」
そもそも初詣にフライングが成立するのか分からないが、それを普段突っ込む2人はここにはおらず。いるのは、適当と軽薄を形にしたような五条悟という人間だけで。
初詣!と少々テンション高く、なまえは大股でジャンプする様に神社の賽銭箱の前まで歩いた。後ろから、コンビニ袋を下げた五条もすぐに歩いてくる。
財布から小銭を取り出すと、確認して五条に手渡した。
「十五円?」
「十分に御縁がありますようにって」
「へー」