第9章 祈り
「おーなーかーいっぱーい!」
もう食べられないと、お腹をさすりながら幸せな息を吐き出すなまえ。途中何度か肉争奪戦が繰り広げられ、A5肉が宙を飛ぶという珍事も起きたが、それらは4人の胃袋に無事収まった。テーブルに残っているのは、鍋底にわずかに残ったすき焼きのたれと、側に置いてある白い皿の上にこびりついた生クリームだけで。
硝子も珍しく食べすぎたのか、テーブルの上に被さる様にして突っ伏している。
心配したなまえが、大丈夫かと問い掛ければ、「タバコ…」と苦し気な声が返ってくる。単なるニコチン中毒かとなまえは白けた顔で華麗にスルーした。
「硝子、コーヒー置いておくよ。なまえはココアね」
「プッ、お子ちゃま」
「悟、お前もココアな」
「やだ悟さん、ブーメランしてますよ」
ニヤニヤして五条を見れば、彼の手が角砂糖を一つ掴んで、なまえのココアにそれをぽちゃんと落とした。「!?」思わずカップの中を覗き込むなまえ。「ココアに角砂糖まで入れるとかさすがお子ちゃま〜」なんて言いのける五条に、口の端を引き攣らせたなまえが、角砂糖を二つ掴むと、それを五条のカップに投入する。
「てめっ」
「どっちがお子ちゃまなんだか〜」
やられたらやり返す。すかさず五条が角砂糖を入れ返し、されたなまえがまたやり返す。繰り返されるその行為に、恐ろしい数の角砂糖がココアに吸い込まれていったところで、バンっと、夏油がテーブルを叩いた。
「2人とも、もちろんそれ、飲むんだよな?」
「は、…はい…」
「…げっ…」
数々の砂糖を飲み込んでいったそのココアが、どんな味がするのか、想像しただけで寒気がする。「
あ゛ーま゛ーい゛ーっ」「う゛っげぇ〜」と悲鳴を上げながらココアを消費していく2人を、呆れた顔で眺める夏油。
騒ぎに、少し気が逸れたのか、硝子が体を起こしてコーヒーを口にした。
「あーうま」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
穏やかにコーヒーを飲む2人と、苦しみながらココアを飲む2人。どうしてこうなったと、なまえは嘆きながら何とかココアを飲み切るのだった。