第8章 遠出
「あ、さと…るぅっ!!?」
中の人物を視界に入れた途端、せっかく開いたドアを、今度は彼女自身が、両手で押し戻した。
が、閉まる寸前に反対から力をかけられてドアは閉まり切ることは無かった。半分開いたそこから、今はサングラスをかけていない、見覚えのありすぎる顔が、額に青筋を浮かべているのが見える。
「お前さぁ、どういうつもり?ノックされて、わざわざドアを開けたんだけど?」
「いやっ、だってっ…悟、服着てないからっ」
「はぁ?着てんじゃん。どこ見てんの」
「上だよ上!上を着ろっ!」
「風呂上がりで暑いんだよ。てゆーかここで騒がれたら迷惑だからさっさと入れ」
顔を赤くして必死にドアを押すなまえだが、力では五条に敵わない。押し切られて開いたドアから五条の手が伸びて、なまえの左手首を掴むと部屋の中に引っ張り込んだ。
バタンと無情にもドアがなまえの背後で閉まる。風呂を上がったばかりの特有の熱気をすぐ正面に感じて、なまえは恥ずかしさで顔を上げられなかった。
「で、何?夜這い?」
「んな訳ないからっ!いいから早く服着てよっ」
「意識しすぎじゃね。なまえちゃんエッロ」
「エロいのはお前だっ!」
いいから服を着ろと、顔から湯気が出るのではというくらいに顔を赤くして訴えるなまえに、はいはいと面倒臭い様子を隠そうともせずに、ようやく五条はTシャツを着るために部屋の奥へと入っていく。
先程チラ見してしまった、割れた腹筋が頭の中をぐるぐるして、中々五条の方を見ることができないなまえだったが。ごそごそと、服を着た気配を感じて、恐る恐る顔を上げた。
しっかりと服を着たのを確認し、ようやくホッとして息を吐く。
「何してんの?こっちこいよ」
呼ばれて、部屋の奥へと歩いていく。もともと決して広くはない、単なるビジネスホテルの部屋だ。
部屋のほとんどを占めているベッドのすぐ正面にあるテレビで、観たかった映画が流れているのを見つけたなまえは、目を輝かせて遠慮なくベッドに腰掛ける。
先程まで顔を赤くしていたくせに、すぐにテレビに釣られた彼女を見て、五条はおいっと彼女の頭に手を置いた。