第8章 遠出
目の前までおろしてみれば、それは缶ジュースで。おや?と五条の方を見れば、同じ種類の缶を片手に持ち、さっき飲み物無くなっただろと何でもないように話すから。まさか五条がそんな気の利くことをするだろうかと目を丸くする。
「え……もう雪降る?まだ残暑厳しいのに…」
「あ゛?」
「すみませんっありがとうございますっ」
慌てて、プルタブに指をかける。
先程、飲み物全部飲んでなんてやつだって思ったけど。そんなこと思って悪かったな。わざわざ飲み物を買ってきてくれたのかと。
考えていたなまえの思考は、プルタブを開けた瞬間にすごい勢いで吹き出した、炭酸の泡と飛沫を顔に浴びて、吹き飛んだ。
「ブハハハハハッ!!おま、素直に受け取りすぎっ!」
腹を抱える勢いで笑う、五条。
なまえの髪から、ぽたりぽたりと雫が落ちていく。
彼女は思う。ついつい忘れてしまいそうになるが、目の前のこの男は、基本クズなのだ。
めらめらと静かに怒れるなまえを他所に、笑いすぎて涙すら出てくるのではないかと思う彼は、喉を潤そうと、自分の持っていた方の缶ジュースのプルタブに指をかけ。
プシュッ!と
なまえの時と何ら遜色なく、缶から飛び出した泡と飛沫が、彼の顔面を襲った。
固まる五条のサングラスから、ポタポタと雫が流れ落ちて。
「…ッププ!!」
漏れそうになった笑いを、一瞬堪えようかとも思ったが。その必要はないことをなまえはすぐに思い出した。
「あっはははははは!!」
つい先程の五条よろしく、心底楽しそうにお腹を抱えて笑うなまえ。
五条がなまえを見る視線にも気付かず、とにかく面白くて仕方ないと、笑いは中々収まらなくて。
「あははははっ、もっ…ふつう、自分でもやる?ふふっ、あはははっ!」
「いー加減笑いすぎなんだよっ」
「あははは、ちょっ、まってくるし、くるしいっあははっ」
痺れを切らした五条が、このやろと、後ろから腕でなまえの首を捕まえて軽く締め上げる。
それでも笑いがおさまらず、くるしいッギブギブと言いながらも笑い続ける彼女。
道端で戯れ合う姿は、まるで微笑ましい恋人同士のようで。道ゆく人達は、暖かい視線を2人に送っていたのだが、知らぬは当人達ばかりだった。