第8章 遠出
「うーまーすーぎー!」
「もう一個買ってもよかったな」
「いやでも色んなの食べないとだからね!」
せっなくならば、少しずつでも多くの種類を食べてみたい。次は何にしようと考える2人、先に目ぼしいものを見つけたのは五条だった。
残っていたメンチカツを一口で食べ切ると、餡子特盛饅頭と書かれた店を指差す。
「あれ買ってくるけど、なまえはどーする?」
「ノーセンキュー」
「そ。なら待ってて」
なまえが先程渡した飲み物を、なまえに返して、店へとどこかうきうきした様子で並ぶ五条。
返された飲み物が妙に軽いことに気づき、パカリと蓋を開けて覗き込んでみれば、そこには溶けかけた氷しか残っていなかった。
あいつっ…!
ピクリとなまえの口の端が引き攣る。
仕方なく、中の氷を近くにあった溝に流し、少し離れた所にあったゴミ箱に、空っぽになったそれを捨てた。
くそーと腹ただしい気持ちで五条の方を見れば、綺麗な二人の女性に声をかけられている彼の姿が目に入る。
「っ……もて男め…」
現実に、あんな異性から声をかけられるなんてことあるのか。私はないぞ。
心で呟いて、それはそうかと思う。なまえ自身、初対面で彼の顔の整い具合に驚いたのだから。そして、白い髪という特徴も相まって、見ようによっては神秘的にも見える。
比べて自分はといえば、特出すべき特徴のない顔だ。
そんな、自分と彼が。2人で一緒に歩いて話をしているということが、急に奇跡の様に感じた。
「……呪術のおかげだなー」
これが使えなければ、五条と出会うことはもちろん。この学校に入学することもなかったのだ。それは、硝子と夏油にも言えることで。この学校に入学しなければ、この仲間との出会いは無かっただろう。
この力がなければ。
「何惚けてんの」
頭にコツンと何かが置かれた感触があった。
いつの間に饅頭を買い終わったのか、視線を上げれば五条悟がなまえの目の前に立っていて。同時に、頭に置かれた何かのバランスが崩れる感覚があり、慌てて両手で倒れそうになったそれを掴む。
「あぶなっ!…何これ?」
「わっざわざ買ってきてやったんだから落とすなよ」
「ならなんで頭に乗せるかなぁ!?」