第8章 遠出
「うまー!」
白い紙に包まれた、茶色の衣が輝くコロッケ。歯を当てた時のサクッとした感触に、口の中に広がる肉の重みとじゃがいものホクホク感、玉ねぎの甘味。
幸せだと顔中で表現するなまえ。その隣で、コロッケと似て異なる、メンチカツを一口頬張った五条が、あちっと悲鳴を上げている。
「悟、猫舌?」
「油断した」
うえっと舌を出して痛そうにしている彼に、なまえがコロッケとは逆の手に持っていたストローが挿してある氷入りの飲み物を差し出す。
所謂これは、食べ歩きというやつだ。なまえのやりたいことリストにも入っていて、行き交う人混みの中を楽しそうにキョロキョロと周りを見渡しながら歩いていた。
ふと、中々飲み物を受け取らない五条になまえが不思議そうな顔を向けた。
「あれ、いらない?」
「…いや。お前、こーゆーのは気にしないよね」
「何が?」
「別に。自信持っていいのか悪いのか分かんなくなるって話」
「悟はいつも自信満々じゃん」
何言ってんのと呆れた顔をする彼女の飲み物を、ようやく五条が受け取る。片手が空いたなまえは、両手でコロッケを持ち直すと、また一口大きく頬張った。
ほくほくした旨みに、顔が自然と笑顔になる。そんななまえの様子を、飲み物を飲みながら見ていた五条が、彼女の頭に肘を置いた。
「ちょ、重いっ」
「それ、俺にも一口ちょーだい」
「いいけど、舌大丈夫なの?」
「治った」
嘘だ。そう思ったが、強がりたい年頃なのだろうと、五条に聞こえていたらめちゃくちゃ頭をぐりぐりされそうなことを考えて納得する。
両手が塞がっているため、あっ、と大きく口を開ける五条。ちょっと待ってと、また五条が火傷しない様に、何度か手で仰いでコロッケをさます。
食べかけのそれを、彼の口元まで手で持っていき、
「(…あれ?これなんかちょっと恥ずかしい、ような)」何かに気づきかけたが、その前に、五条がサクリとコロッケを齧った。
「んー、うま!」
「でしょでしょ!」
これ美味しいよね〜と笑う彼女に、メンチカツ食う?と五条が聞けば、勢いよく頷いてみせる。
口元に差し出されたそれに、そっと齧り付けば、口の中にジューシーな肉汁が広がる。