第8章 遠出
吸引されそうだったトンネルの奥へと自分から走って向かう。止めていられる時間は無限ではない。
なぜなら、この空間では、呼吸ができないからだ。
「(見つけた!)」
トンネルの大きさスレスレに、大口を開けて停止している、トカゲに似た呪霊の姿。その口に、今まで何もかもを吸い込ませていたんだろう。スピードを落とさずに、呪霊の後ろに回り込む。壁を蹴って(実際には壁に触れていないが)、呪力を込めた蹴りが、呪霊に触れる寸前に、術式を解除する。
時が動き出した直後に、後方から突然一撃をくらった呪霊は、何が起こったのかも理解できずに開けていた大口を地面に叩きつけられる。
やはり、なまえの攻撃は準一級相手にはやや軽い。
更に時間を止めてもう一撃と思ったが。どうやら、最強の異名を持つ彼にとっては、最初の一撃の時間だけで十分だったようだ。
「引っ張りあいっこ?それなら俺、負けないけど」
瞬間に、トンネルの壁をも巻き込んで、吸い込まれる様に潰されていく呪霊。準一級のそれが、手も足も出ない圧倒的なその力。
『五条の後ろ』でそれを見ていたなまえは、息を切らせながら、あまり自分の必要性が感じられないと思う。
背後にいるなまえに気付いた五条が、首だけで振り返った。
「あれ?なまえ、もっかい止めた?」
「止めた。この呪霊、潰される瞬間に尻尾切りしてたみたい」
逃げ足が早いと言われていたのは、このせいだろう。自分の不利を悟ると、身体をおとりに、自らの尻尾を切り離して逃げる。本当のトカゲとは逆だと思ったが、その速さは、なまえが時間を止めた時には、すでに五条の背後をすり抜けているほどだ。まさしく、逃げに特化しているのだろう。