第8章 遠出
「闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え」
言葉と共に、空に帳が広がり、それが降りていくのを確認する。呪いを祓う前には、非術師に気付かれないよう、必ずそれをすることが義務付けられているが。
「五条〜!今帳下ろす前にトンネルに突っ込もうとしたでしょ!」
「…」
「っ、悟!」
「こんな山ん中に人なんてこないでしょ。帳なんて必要なくない?」
「人がきてるから死亡事故が起きてるの!」
ルールにルーズな五条。普段は夏油とニ対一で押さえ込んでいるが、今日は一人で押さえ込まないといけないと思うと、急にこの任務のハードルが上がった気がした。
はいはいと全然反省していない声で頭の上で手を組む五条。歩き出した彼の横に並ぶ。そういえば、彼の歩幅は私よりも確実に大きいはずなのに、一緒に歩く時に離されていくことがないことに気づいた。
「そもそもなまえが夕方になる前にって急いでたんじゃーん」
「し、仕方ないでしょ、夕日が出てる時は術式使えなくなるんだから…」
「黄昏時は無能ですからってやつね」
「…それ某漫画のパクリ」
なまえの術式の制限の一つ。黄昏時は術式が使えなくなる。逢魔時という名前のくせに、黄昏時は逆に術式が使えないのかと思うが、逆に黄昏時しか使えなかったらそちらの方が困る。ということで納得している。
と。ピタリと足を止めた五条にならって、なまえも足を止める。瞬間、なまえは術式を使用した。なまえ以外の世界全てが、静止する。
「(危ない、引き込まれるとこだった)」
止まった時間の中で、素早くなまえは現状を把握する。呪いの気配を感じて、足を止めた次の瞬間。トンネルの奥に吸引される力を感じ、引き込まれる前に時間を止めたのだ。
「(五条はまぁ、自分でなんとかするでしょ)」
静止している彼を放置して、呪いの本体を探る。
冷たいと言うことなかれ。この静止した時の中では、自分以外の、静止しているものに干渉することができないのだ。だから、止まっている敵をぼこぼこにすることはもちろん、静止している彼を安全地帯に運ぶということはできない。