第8章 遠出
こんなにも多くの人が駅内にいたのかという驚きと、通路の複雑さに恐れ慄くなまえ。
気を抜くと、あっという間に人の流れにのまれそうで。
「ご、五条!五条!」
「…」
「さーとーるー!」
「なに?」
「服掴ませてくださいっ」
返事を聞く前に、彼の腰あたりの服をぎゅっと力を込めて掴む。駅というのが、こんなに恐ろしい所だと思わなかった。絶対に離すものかと、指先に力がこもる。
そんななまえの危機迫る様子を見て、「お前まじでズボン引っ張りすぎんなよ。脱げたらお前の服も脱がすからな。」と釘を刺してくる五条。
両想いはやはり勘違いじゃないかと、若干自信がなくなる。
改札で一悶着(五条の服を掴んだまま一緒に通ろうとして、駅員さんに止められた)あったものの、無事新幹線に乗り込んだ2人。
切符に書いてある席番号を見つけて、なまえはパッと花開くようにして笑い、席に座った。
「ごじょ…じゃなかった、悟!悟!こっちこっち!」
「はいはーい。分かったからさすがに新幹線の中で俺の名前でかい声で叫ぶのやめてくれる?」
「聞こえなかったかと思って!」
五条が荷物を荷台に乗せただけで、おー!と拍手をして感動するなまえ。
ふかふかな座席もお気に召したようで、座りながらもそわそわと感触を確かめている。そんな彼女をどこか呆れたように見ながら、隣へと座る五条。
途端に、ピタッとなまえが動きを止め、そっと五条の方を見た。