第8章 遠出
「そういえばなまえって全然術式使わないよね。なんで?」
「だって私だけ歳とっちゃうじゃん」
自分以外の時間を止めている間、自分の時間だけは進んでいる。ちりも積もればになるかもしれない。
「あーなるほど。気づいたらなまえだけ大人になってる感じか」
「そうそう。私だけ歳とって、大人になっちゃっても友達でいてくれる?」
「当たり前でしょ」
「硝子好きっ!」
大袈裟にギュッと抱き付けば、よしよしと背中を抱きつき返される。
実際には、なまえの逢魔時には、もう一つ使える力がある。そちらを使えば、なまえだけ歳をとる、という問題は解決できるのだが。それよりも制限による問題が強すぎて、基本的にこちらの力を使うことはほとんどない。
体を離すと、明日もなまえ早いだろうしそろそろ行くわと硝子が立ち上がる。一瞬考えるように止まると、少し揶揄うように、笑った。
「五条とのデート楽しんで」
「任務だからっ」
どこか情けないなまえの声が部屋に響いた。