第8章 遠出
なんだ、五条と夏油か。
自分には関係のない話だったと、早々に理解して身構えていた心を解すなまえ。
基本的に、2人で任務となれば、一年生ではこの2人の組み合わせがほとんどだった。
反転術式を使用できる硝子は残留が多く、残り3人での任務が一番多いが、五条と夏油が2人で行く任務も時々ある。任務は遠出になり、泊まりがけになることもあるので、性別的な配慮があるのだろう。
「任務に行くのは、悟、なまえ。お前たち2人だ」
完全に油断していたなまえだが、口から変な声が出そうになったのを何とか堪えた。
「××県にあるトンネルで、行方不明と死亡事故が相次いでいる。準一級相当の呪霊が原因だということは調べがついているから、それを祓ってこい」
××県と聞いて、更になまえの顔は引き攣った。完全にお泊まりする距離だからだ。
慌てて、右手を挙げて立ち上がる。
「あの、先生。準一級だと、準二級の私には荷が重いと思うんですが…夏油か、五条1人で大丈夫じゃないですかね」
「今回の呪霊は、どうにも逃げ足が素早いみたいでな。なまえの術式なら相性がいいだろう?実力的に足りない部分を、五条には補ってもらう」
「……泊まりですよね?」
「だから夏油じゃなく五条にしたんだ」
さらりと言う夜蛾に、あ、これ夏休み中のまだ勘違いしてると察するなまえ。
だが学生という本分を忘れず、羽目を外すなよと、理解のある先生感を見当違いな方向に出してくる夜蛾に、なまえは二の句が告げない。
「担任公認なってんじゃん。五条の手回し早くない?」
「俺なんもしてないけど」
「え?…なまえ?」
「違うからっ、勘違いだからっ」
「まぁまぁそんな気にせず、旅行だと思って楽しんでこればいいじゃないか」
夏油の落ち着いた声に、そんな簡単なことなんだろうかと思うが、自分以外に取り乱している人はいない。私が意識しすぎているだけなのか、確かに任務だし、と思えば、1人慌てている自分がなんだか恥ずかしくなり、静かに椅子に座った。
この3人と一緒に過ごすようになってから、普通の境界線が曖昧だ。
考えることを放棄したなまえは、英語の教科書を出すため、引き出しを引っ張るのだった。