第8章 遠出
こういうところも。もしかしたら私の考えすぎなのかもしれないけど、となまえは思う。
以前より、距離が近くなった気がするのだ。
まとめて会計されたアイスを、五条が夏油と硝子に手渡して。なまえがアイスを受け取ろうと手を差し出す前に、五条が手に持っていた二つのアイスのパッケージを開けた。一つは自分の口へ。もう片方をなまえの口元へ自然に差し出す。
深く考える前に、餌付けされた雛鳥よろしく口を開けば、冷んやりとしたそれが口内に広がった。
ー こういうところもだ ー
口で受け取ったアイスを食べながら、心の中で呟く。五条が選んだのが同じアイスだったからというのもあるのかもしれないが、自然に見せかけて、甲斐甲斐しい気がして。
だが、夏休み中過ごした時間も、距離感だけで言えば、近かったように思う。
ー 私の意識の変化…? ー
あの時はなまえ自身はとっくに五条に好意を抱いていたが。逆に五条からのそれはないと思い込んでいた。だから今、五条からの爆弾宣言を受けて、彼の行動を意識しすぎているのかもしれない。
ー …もうやめよ。自意識過剰だと恥ずかしい ー
教室へ着くまでにアイスを食べ終わらなければと、シャリシャリ口の中のそれをくだきながら飲み込んでいったなまえは、頭に響くキーンとした痛みに頭を押さえて苦しむのだった。
五条が教室のドアを開けると、中にはすでに担任の夜蛾が教卓前に立っているのが見えた。
何も言わずとも、五条が左手に握っていたアイスのゴミを体の後ろへと隠し、それを夏油が受け取って廊下のゴミ箱の中へと落とす。この間、1.5秒。
「お前たち遅かったな」
「先生が早すぎんじゃない?老体をもっと労ってあげないと」
「悟、目上の人には『ご』を付けろ。ご老体、だろ」
アイスを食べていて遅刻をしたくせに、この上から目線の会話。こればかりは真似できないと、硝子と目を合わせて、やれやれと首を振る。
「いいから座れ」と促す先生に従い、席につけば、授業の前に任務の知らせだと、夜蛾先生が4人を見る。
やった、この調子で授業時間潰れろと心の中で祈る、なんだかんだ優等生ではないなまえ。
「といっても、今回の任務は全員で行ってもらう訳じゃない。2人は任務、2人は高専に待機だ」