第7章 花火大会
「なまえー、着替え終わった?」
「逆に終わってなかったらどうする気だったの?」
「手伝おっかなって」
なまえの代わりに呆れた声で返事をする硝子にも、全く気にしていない様子の五条。
プライベートとかいう言葉、知らないんだろうなとなまえは思う。もう夏休み中の生活で、彼のこんな部分には慣れてしまったが。
五条の後ろから、「失礼するね」と夏油も顔を出す。
「なまえ、怪我したって聞いたけど大丈夫だった?」
「あ、うん。硝子に治してもらった。心配かけてごめん」
「そんなことより、女子の部屋にずかずか男が2人も入ってくるってどーよ」
出てけ出てけと、女子2人の時間を邪魔された硝子が不機嫌そうに手をシッシッと払う。
その様子を見て、ああ、いつも通りの4人だと、なまえは少しほっとした。あの時、自分のせいで空気を壊してしまったことを、気にしていたのだ。
和やかになる部屋に、まさかの爆弾を投下したのは、意外性も何もない五条悟だった。
「恋人の部屋に入ってるだけだから何の問題もないでしょ」
その、何でもないように放たれた一言に。
その場にいた全ての目が五条に向けられ、一拍後、次はなまえへと一斉に視線が集まり、ポカンとしていた彼女は、そこで正気に戻った。
驚きから抜け切らないまま、慌てて右手をぶんぶんと音がするくらい左右に振る。
「え、しら、知らない知らないっ」
「あ、そっか。これからなる予定だったんだ」
混乱の絶頂にいるなまえに、五条がニコリと笑顔を浮かべる。
その様子を見ていた硝子は、そこで五条の企みを察した。
それは、囲い込みと、牽制。
「(うっわ。ついに自覚したのか。逃す気ないじゃん。)」
呆れる気持ちと、なまえの心境と今後を思って、不憫に感じる。
「そういうことだから、よろしく。なまえ」
逃す気はないのだと、彼の声色がその本気さを伝えてくるが。
「(この子、もうとっくにあんたに落ちてるんだけどね…)」
最早、できすぎた出来レース。
やっぱりめちゃくちゃおもしろいわ、と。硝子は対照的な表情を浮かべる2人を見つめるのだった。