第7章 花火大会
もしかしたら夢だったのかもしれない。
現実味が無さすぎて、なまえはついにはそんな考えに至り始めた。
なまえを抱き上げたまま、部屋まで連れてきてくれた五条は、彼からは想像できないくらいに甲斐甲斐しかった。
風呂場に椅子を置いてくれ、そこに座ったなまえの両足を綺麗に洗い、傷の手当てまでしてくれた(硝子に連絡をとってくれたらしく、それまでの応急処置だそうだ)。
ベッドの上にタオルを置き、そこに彼女を座らせると、夏休みの間に勝手知ったることになった彼女の部屋にあるタンスからTシャツと短パンを取り出す。
「着替えはこれでいい?」
「あ、うん、ありがとう…」
「自分で着替えれそ?手伝おうか?」
「えっいや、自分でできるからっ」
「遠慮しなくていーのに」
「してないしてないっ」
さすがにその話題で長く押し問答する気はないのか、すんなり部屋を出た五条に、ふぅと息を吐く。
そして、何だこれはと頭をかかえた。
どうしてこんなに世話を焼いてくれるのかと思うが、彼なりになまえの怪我に責任を感じているのだろう。
いや、本当に頭を抱えているのは、そんなことではなく。
「(キ、…キス、した?したよねっ!?)」
ここに帰ってくるまでの道中を思い出し、誰かに問いただしたい気持ちになるが、残念ながらそれを知っているのはまさしく五条となまえの当人達だけ。他の誰も問いの答えを知る人はおらず。
コンコンと響いたノック音に、慌てて顔を上げる。
はいっと声を張れば、ガチャリとドアノブが回り、部屋に入ってた人物に、なまえは思わず顔を綻ばせた。
「硝子!」
「なまえ」
表情が明るくなるなまえとは相反して、どこかいつもより暗さを感じる硝子の声。
ベッドに座るなまえの側まで歩いてきた彼女は、そのまま、無言でなまえを抱きしめた。
「ごめん、なまえ」
えっと固まるなまえに、硝子の腕の力が強まる。
「私が変な提案したから、なまえに嫌な思いさせた」
名前のことだとすぐに分かった。ソッと硝子の体を離して、首を横に強く振る。