第7章 花火大会
「ねぇねぇ」
笑顔のまま、五条の目を見返した。
花火が見える道で、2人だけ。好きな人にお姫様抱っこをされているなんて、すごいシチュエーションだとまた笑えてくる。
「悟」
って、これから呼びたいと。
続けるはずだったなまえの言葉は、惹き寄せられるように近づいてきた五条の顔に、止められてしまった。
笑っていた口元に、ひんやりとした柔らかい感触が触れて、そしてまた戻っていく。
目を大きく見開いたまま、彼女はそれを見送って。
「え?」
「え?」
なまえの声と重なって、五条の声も聞こえた。なぜ彼までそんな何が起きたか分からないみたいな顔をしているんだろうか。
なまえは、自分の両手で、そっと口元を覆って。瞬間、
キスされたっ!?
と、雷のように現実を理解した。
途端、動揺が顔に出て、一気に顔が赤くなる。
それを見た五条もまた、唐突に現状を理解して、動揺を止められなかった。
腕の中で笑う彼女から、突然目が離せなくなり、足を止めた。以前もこんなことがあったと思うが、その時よりも不思議な高揚感があった。
笑う彼女と目が合うと、その瞳に吸い込まれそうだと思った。
決して、自分のタイプではないはずなのに。
真っ直ぐ見つめる目も、少し小さな鼻も、ピンクに色づく唇も。何もかもに惹きつけられる。
以前触れたいと思った唇が、悪戯げに言葉を紡ぐ。誘惑するように動くそこから、
「悟」
と言葉が紡がれた時。
自然と、自分のそれを彼女の唇に重ねていた。
想像していたよりも、ずっと柔らかった感触に、頭の中にある何かが焼き切れそうな気がして、名残惜しくもそこから離れる。
目を大きく見開く彼女に、可愛いと言う感想を抱きつつ、そこでふと。自分は今何をしたと考える。
ほとんど彼女と同時に、間抜けな疑問符を浮かべた声が漏れた。
次の瞬間、真っ赤に染まって口元を手で押さえるなまえを見た時。
五条はもう、認めるしか無かった。
自分はこの、馬鹿で間抜けな愛らしい生き物に、惹かれている。それはもう、手放せないぐらいに。
彼女が名前を呼んだ親友に、嫉妬するほどに。
認めてしまえば、その感情はストンと彼の中に収まって。声も出せずに顔を百面相させている彼女を抱く腕に、力を込めた。