第7章 花火大会
これは没収と、ひょいと携帯を取り上げられる。
ああ、と携帯を目で追いかけるが、取り返すことはできそうにない。
いつの間にか、先程の珍しい様子からは脱却したらしい五条は、まだ僅かに顔に赤みを残しつつ、それでさっきの続きだけど、となまえに向き直る。
「俺の名前呼びたくて、どうして出てきたのが傑の名前なわけ?俺の名前知ってる?」
「も、もちろん知ってるけどっ!いざ呼ぼうとしたら、なんでか、五条の名前言えなくて…その点、夏油の名前はすんなり言えるなぁと思ったら、そっちが先に出たっていうか…」
なまえの言い訳を聞き、ふーんと、納得したと言うには、些か不満を抱いていることを声色に隠さない五条。
だが、とりあえずはこれ以上問い詰めることは辞めたらしく、フーッと息を吐くと、突然なまえの膝と首の裏に手を回す。
「えっ、な、なに!?」
「そんな足で歩けないだろ?」
そのまま、なまえの身体を持ち上げた。それは、所謂お姫様抱っこというやつで。密着する体と、誰かに見られたらという恥ずかしさで、内心ひいぃぃと悲鳴をあげるなまえ。
思わず足をばたつかせれば、暴れたら落とすと言いのける彼の腕の中は、全く安心できない。
「花火、楽しみにしてたのに悪いけど、高専にもどるから」
歩き出した五条の言葉で思い出して、空に打ち上がる花火を見上げる。
始まったばかりのそれは、これから更に盛り上がりをみせるだろう。
確かに楽しみにしていたけれど、今、五条の腕の中にいるということの方が嬉しく感じてしまっていると…言ったら、彼はどんな顔をするだろうか。
もちろん、そんなことは言えないが。
夏油と硝子は今どうしているだろうか。
心配をかけているだろうなと思う。連絡をした方がいいかもと考え、自分の携帯電話は五条に取り上げられたことを思い出した。
「五条。硝子と夏油に連絡しないと…。携帯返して?」
「あー。俺からしとく」
「えぇっ、全然信用できないんだけど…」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
これは絶対に連絡しないだろう。硝子、夏油、ごめんとなまえは心の中で謝罪する。
足のコンパスの違いか、スタスタと歩く五条に、今更ながらなまえは不安になった。