第7章 花火大会
そこで、なまえの中に、まさかという考えが浮かんだ。
まさか彼は、純粋になまえが夏油の名前を呼んだことに対して、怒っているのだろうか。それはまるで…やきもちをやくように。
もちろん、そんな訳がないと分かっている。なぜなら、やきもちというのは、好きという感情があって初めて成り立つものなのだから。
なまえが返事を返さないことで、五条から伝わってくる不機嫌な感情が強くなったことを感じとり、慌ててなまえは首を左右に勢いよく振った。
「いや、違うよっ。どうしてそうなるのっ」
「顔赤くして傑の名前呼んでただろ」
「それは、そういうんじゃなくてっ、本当は五条のっ…」
言いかけて、慌てて口を閉じる。こんなの、恥ずかしくて言えないと彼女は思うが、自分の名前に反応した五条が、「本当は俺が、何?」と先を促す。
できるなら、言葉を全て飲み込んでしまいたかったが、真っ直ぐ見てくる五条の視線に逆らうことができず。
「ほ…本当は、五条の名前を…呼びたくて…」
顔を真っ赤にしながら、必死で言葉を紡ぐなまえ。
そんな彼女を見て、五条は驚きに丸く目を見開き。次の瞬間、左手で自分の顔を覆い、そのまま隠すようにして、顔を伏せた。
「ご、五条…?」
「……ちょっと黙って」
「(一生懸命言ったのに!?)」
恥ずかしかったのにっと、顔を伏せたままの五条に恨みがましい視線を向ける。その視線の先で、なまえは、五条の白い髪の間から見える耳が、赤く色付いているのに気づいた。
まさか、と彼女は思う。
「五条…耳が、赤いけど…」
「…うるさい」
「………照れてる?」
「っ〜〜あ〜!お前はホントにっ!」
左手で顔を覆ったまま、顔を上げる五条。顔を隠すようにして覆っている左手の隙間から見える肌は、側から見ても分かるほどに、耳と同じく赤く色付いていて。
見たことのない彼のそんな姿に、先程まで感じていた恥ずかしいという感情を忘れて、なまえは浴衣に合わせて持っていた籠バックから、急いで携帯電話を引っ張り出した。
「写メっていいですかっ」
「…お前、いい度胸してんね」