第7章 花火大会
「…何、その顔」
「あ、いや…」
問われて、口籠る。
近くで見ると、五条の浴衣が着崩れ、少しばかり息も切れていることがわかった。走って、探し回ってくれたのだろうか。
そういえば、東京タワーに行った時も、彼は自分を探しにきてくれた。ふと、思い出して。気づけば、彼の左頬に自分の右手を重ねていた。ギョッとしたように、五条がなまえを見る。
「ここ、赤くなってる」
痛そうに色づくそこに、軽く触れる。
「、あー…傑に一発もらった」
「えっ…あ、ごめん、私のせいだね…」
なまえがあの場で泣いてしまったから。
あからさまに五条を悪者にしてしまったんだろうと思ったが、五条はなまえの言葉に眉を寄せた。
「ちげーよ。今回のは、完全に俺が悪い」
苦虫を噛み潰したような顔で話す五条に、真夏に雪が降るのではと少し不安になる。そっと、五条の頬に触れていた右手を離そうとすれば、五条の左手がなまえのその右手を掴んだ。
「こうやって…」
透き通るほど青い瞳が、なまえの両目を捉える。
掴まれた右手が、熱いと感じて。
「こうやって、触んのも名前呼ぶのも…俺だけでよくない?」
目に籠る強さが、逸らすことを許さない。
頭の中で、五条の言葉をかみ砕く前に、ていうかさと彼は続ける。
「今回のことは俺が悪いけど、なんかまた似たようなことあっても、同じようなことしないって言い切れないんだよね。つうか、するわ。あ、もちろんなまえがこんな風に傷つくことをするつもりはないけどさ」
つらつらと紡がれる言葉に、なまえは何度も目を瞬かせる。
正直なところ、五条がいったい何を言っているのか分からなかったのだ。
『似たようなこと』とはなんなのか。恐らく、なまえのした行動が、彼の感情を逆撫でてしまったことは分かる。
じゃあ、その行動がなんなのかと言われれば、真っ先に思いつくのは、もちろんなまえが、みんなで楽しみにきてる花火大会で、恋愛を意識する言動をとったことだ。
名前で呼ぼうとして、でも結局呼べなかったけれど。
言葉を返さないなまえに、五条は隠し切れない不機嫌さを表情にのせる。
「それとも、やっぱ傑がいいわけ?」