第7章 花火大会
近くにあった階段の段差にそっと腰をかけて、足の状態を確認する。
下駄を履いている右足は、親指と人差し指の間が鼻緒で擦れたようで、酷い靴擦れができており、若干血が滲んでいる。それより酷いのは、もちろん途中で下駄が脱げた左足だ。素足で砂利道を走ったそこは、小さな鋭い石が刺さって切れている部分もあれば、皮が抉れてしまっているところもある。どおりで痛いわけで。
情けない、と落ち込む気持ちが止められなかった。
こんなことで泣いてしまうなんて。場の空気を乱してしまうなんて。
五条が言ったことは、正しかった。
相手は違うにしろ、楽しい花火大会の場で、恋愛云々を持ち出し、彼の気持ちをしらけさせてしまったのだ。それは、なまえの自分勝手な行動のせいだ。
『ここ』では、大丈夫だと思っていたのに…。
私はきっと『また』間違えたのだ。
気分が落ち込んできて、ズズっと鼻を啜る。
その時、パンっと音がして、花火が上がり始めた。いつの間にか、花火の上がる時間になっていたらしい。瞬いて消えてゆくその光の粒たちが、とても綺麗だと思った。本当ならば、仲間4人で眺めていたはずのその光を直視できず、足元に目をやる。
そして、ぎくりと体を強張らせた。
馬鹿みたいに慣れ親しんだ、呪力の気配。
それが今、自分の正面にある。
ほとんど無意識に、立ち上がろうと両足に力を込めて
「動くなっ!」
今まで聞いたことがない、鋭く大きな声に、なまえの肩が跳ねた。
怒っている、怒っているのだろうか。わざわざ追いかけてくるような人じゃないはずなのに。追いかけてくるほど、怒っているのか。
恐怖で、顔が上げられないなまえの耳に、ジャリッと、一歩近づいてくる足音が、妙に大きく聞こえた。
「っあー…ちがう、…怖がらせるとか…そんな、つもりじゃなくて…」
次に耳に飛び込んできた、彼のものとは思えない、弱々しい声。
思わず上げた顔の先には、やはり想像していた人物、五条悟が立っていた。その顔にサングラスは無く、露わになった顔には、ひどく苦いものを食べたような、歯を食いしばっているような表情を携えていて。
こんな顔をする彼を、見たことがなくて。
どこか呆然とした様に五条を見つめるなまえに、彼が静かに近づいく。