第7章 花火大会
同年代の異性が浴衣を着るということは、男女ともに感じることがあるようで。固まったなまえと時同じくして、女子2人の浴衣姿を見た2人もまた、その破壊力に固まった。
普段とは違う柔らかいゆったりとした作りの布に、見え隠れする細い手首と、露わになっている白い首筋。垂れている後毛が、より扇情感を煽る。
「…これ、なんてエロ本?」
「やめとけ悟、未成年は購入不可だ」
「素直に似合ってるとか褒めれないかなぁっ!?」
「なまえ、クズには何を言っても無駄」
こそこそと女子の姿をネタに卑猥なことを話そうとする男2人に、なまえもついつい煽られる。
ようやくいつもの調子に戻ってきた4人は、花火大会の会場に向かうため歩き出し。グリコしながら行こうぜという五条の提案に、なぜか乗ってしまった3人。同じ目的地のはずなのに、互いの距離が開いていくのが面白くて、笑いが止まらなかった。
そうやってたどり着いた花火大会の会場で、立ち並ぶ屋台の数々に、なまえは顔を輝かせた。日は落ちてきていて薄暗いはずなのに、提灯の明かりと、溢れかえる人の声で、昼間だと錯覚するような賑やかさがそこにあった。
「花火が上がるまで時間あるし、屋台回ろうか」
夏油の提案に、必死で頷き肯定を返す。
たこ焼きも、綿あめも、かき氷も。普段は別段珍しくもないものが、ここでは特別なご馳走に見えるから不思議だ。
「よーしよしよし、何がほしいのかな?お兄さんが買ってやるから言ってみな」
「ちょっ、髪!くずれる!」
いつもの調子で頭に手を置こうとしてくる五条から身をかわし、せっかくセットしてもらった髪を守る。
少し距離をとって、改めて五条を見ると、彼がこの場でもとても目立っていることに気づいた。頭ひとつ飛び抜ける長身に、少し着崩した浴衣。何より、整った顔立ちに、周囲が若干ざわめいている。
ー 名前で呼んでみれば? ー
ふと、硝子に言われた言葉を思い出した。
名前を呼んで、何か変わるだろうか。何か変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。
そもそも、名前を呼んだことに気づくかも分からない。
でも、と思う。
せっかくの機会だ。これを逃せば、名前で呼ぶことはないかもしれない。
簡単だ、たった一言。『悟』と、そう言えばいいのだ。
スッと、息を吸って。