第7章 花火大会
赤くなって慌てふためくかと思いきや、意外にもなまえは冷静だった。諦めたような目で、硝子を見返す。
「五条にそんな期待するだけ無駄だって、さすがに私も分かるよ」
「え〜。なにそこ悟ってんの。つまんね」
「ちょ、今本音出たけどっ」
憤慨する彼女を笑って宥めながら、じゃあ〜、と続ける。
何?とこちらを見てくるなまえに、硝子はニコっと笑った。
「いつもと違うことしてみるとか」
「いつもと違うこと?」
提案された言葉を反復する。
それはどんなことだろうか。川に飛び込んでみるとか?とまったく明後日の方向に思考がいくなまえに、そんなのドン引きだからねと硝子が呆れる。
「そういうんじゃなくて。最近考えたんだけど、なまえさ、あの男子2人のこと苗字で読んでるでしょ?」
「あー。それは、確かに」
「名前で呼んでみれば?」
名前で…。と少し頭で考えてみる。
苗字で呼んでいることに、特に意味はない。
硝子とは早くに仲良くなって名前呼びになった。男子2人ともずいぶん仲は良くなったが、苗字呼びで定着していたため、特に変える必要性は感じなかったのだ。
今更名前で、という気もするが。
「うーーん…まぁそれならできそう、かな」
とりあえず、頷く。
名前で呼ぶだけならば、硝子のことだって呼んでいるし、別段ハードルは高く感じなかった。
女子トークを繰り広げている2人に、着付けをしてくれたお姉さんがすみません、と声をかける。
「お連れ様も準備が整って、外でお待ちですよ」
「あ、ありがとうございます!」
出よう出ようと、草履を履き、ドアを開けて外へ出る。
ドアを開けた音で気づいたのか、外で待っていた五条と夏油がなまえと硝子の方を振り返った。
瞬間、なまえは、ぐっと心臓を掴みたくなる。
男性の浴衣とは、こんなに破壊力があるものなのかと問いたくなるほど、2人は浴衣がとてもよく似合っていた。
明るいグレーに、黒い線の入る浴衣を着た夏油は、そもそも浴衣が板についている。
対して五条は、黒いシンプルな生地に、若干くすみのある白い帯を巻いていて、白い髪にも見事に映えていた。