第6章 夏休み
先程まで五条に泣き落としをしていた状態から一変し、真っ直ぐに見つめてくる二つの瞳に、らしくもなく、彼は一瞬たじろいでしまう。
そして、スッとこちらへ伸ばされてくる彼女の右手を、視線だけで追いかけた。何だ?と思うが、なまえ相手に、無限を展開させる必要はない。自然とそう理解するぐらいに、五条は彼女を信頼していた。
ピタと、ひんやりした指先が、額に触れる。
瞬間、自分の心音が、耳元で聞こえたのではと思うほどに大きく響き、びくりと五条の体が揺れた。
顔に、熱が集まっていく様な錯覚を感じるのに、触れられているその感触が、思っていた以上に心地よく、反応できない。
「やっぱり、熱いよ」
呟かれた言葉に、顔の熱が伝わってしまったのかと、訳もなく焦る。
こんなこと、初めてだった。
縫い止められたように動かない口を、無理矢理ひらけば、どこか掠れた声が漏れた。
「、なに?」
「だから、熱いって。五条、これ熱あるよ」
指先が離れて、五条の肩から力が抜ける。それなのに、その指先が惜しいと思っている自分がいることに気づいた。
「(なまえはなんて言った?…ねつ、?あっ、熱か)」
だから顔が熱く感じたのかと、納得する。
「なんかおかしいと思ったんだよ。元気すぎるし。ていうか、熱出て逆に元気になるってなんなの」
どこか呆れた様に笑う彼女から、なぜか目が離せなかった。
熱を出すなんていつぶりか。全く気づいてなかったはずなのに、熱があるのだと聞くと、急に頭がぼーっとしたように感じる。
うまく考えがまとまらない。
回らない頭が、目の前にいる彼女から触れられた時の、心地よさを欲していた。
だから、
「っ、わ!?」
なまえのその手を掴んで、そのまま引っ張り、腕の中へと閉じ込めた。なまえの小柄な体が、腕の中で硬直したのが分かる。
自分自身の体温が高いせいか、彼女の穏やかな温かさと、どこか懐かしさを感じる優しい匂いが、気持ちよかった。
もっとほしいと、腕に力を込めて彼女の首筋に顔を埋めれば、ピクリと反応したなまえは、情けない声をあげた。
「っ、ご、五条…」