第6章 夏休み
食堂について、食べたいものをトレーに乗せていき、一息つくようにして椅子に座る。
なまえがテーブルに置いたトレーの上には、焼き魚に納豆、味噌汁にほうれん草のおひたしと、見事に和食が並んでいる。そこにスッと手が伸びてきて、更に小鉢に入った温泉卵が追加された。
手の主を追いかける様になまえが顔を上げると、向かいに座った五条が「忘れもの」と一言告げる。最近毎日一緒に朝食を食べているため、互いに互いの食事内容を理解しているのだ。
「ありがとう」と伝えて、ノロノロと食べ始める。
夏の初めは、食欲が落ち込んでいたなまえだったが。段々と暑さにも慣れてきたのか、今では以前と同じ量を食べることができるようになっていた。
だが、今日のように睡眠が圧倒的に足りていない状態では、なかなか箸も進まない。
どこかぼーっとした頭のまま、ふと正面を見れば、五条がいつもと変わらない調子で朝ごはんを口へとかきこんでいる。
「五条、元気だね…」
「むしろ何でそんな死んでんの?」
「寝てないからだよ…」
「一晩ぐらいで脆弱すぎ」
「これが普通の人間です…」
もくもくと、箸で運んだ魚を口の中でゆっくり咀嚼しながら、五条は体調を崩すとか悪いとか、そんなことがあるのだろうかと考える。
「(…いや、あるに決まってるか。人間だもの)」
あるならあるで、それは気になる。
そんなことを、考えていたからだろうか。
気になったのは、その日の午後。
術式の練習をするから付き合えと捕獲され、頼むからお昼寝させてくれと涙ながらに訴えていた時だった。
ふと、思ったのだ。
「(いくら何でも、元気すぎない?)」
本来ならば休日。徹夜したのなら、多少なりにも疲労はあるだろうし、その疲労に身を任せて、体を休めたとこで何の問題もないのだ。
それなのに、
「(元気…っていうか、ハイになってる?)」
そこで改めて、なまえの首の襟を掴んで歩いている、五条の横顔を見る。サングラスの隙間から見える、白いまつ毛で縁取られたその瞳。
血走っているというよりは、充血しているように見えた。
気づいて、踵でブレーキをかける。
振り返って何か言おうとした五条の前に、自分の足で立って、正面からその目を見つめた。
「何急に、」
「ねぇ、五条」