第6章 夏休み
青褪めた顔で、身体中を震わせ、その震える指先で五条を指差す庵歌姫がそこにいた。悲鳴の様な声も、身体の震えに合わせる様に揺れている。
そんな歌姫の姿を目にとめて、面倒臭そうに五条が人差し指で頭をかいた。
「なに、1人ずつ出てこればよかった?」
「そんなこと言ってるんじゃないわよ!!あああんたっ、まさかなまえをっ…!!」
わなわなとその先は恐ろしくて口にできないと震える彼女に、ああ、そっちねと思い当たった五条は、すぐさま悪い笑顔を浮かべて、テヘペロと効果音が聞こえてきそうな様子で答える。
「昨夜はお楽しみでした☆」
「ぎゃあああああああっ!!?!?」
五条の悪ふざけをまともに受け取り、まるで我が子を悪漢から奪い取る勢いで、五条の腕からなまえをもぎ取る歌姫。
その間、なまえは振り回される頭を押さえるので精一杯だった。
そんな死に際を漂っているなまえの頭を、歌姫は容赦なく揺らす。
「なまえ、なまえっ!?ちょっと!どうしてなまえがこんなにふらふらなのよっ!」
「そりゃあ、昨日寝かせなかったからねー」
「ひ、一晩中っ!?なまえはあんたと違ってまともな人間なのよ!?死んだらどうすんのっ!?」
「今まさに歌姫がトドメを刺してるけどな」
「なまえっ!?」
あまりにも頭を揺らされて、もはや泡でも吹いてやろうかと半ば自棄になっているなまえ。歌姫先輩をこれ以上からかうなよっ…という怨念が通じたのか、やれやれと五条が歌姫の腕からなまえをいとも簡単に引き剥がした。
「俺たちこれから朝ごはん食べなきゃだから。歌姫とこれ以上遊んであげてるヒマないの。なまえは返してね」
「っ… なまえ…助けられなかった私を許してっ…」
なにこの茶番は…。
眠気が一周して、段々と覚醒してきたなまえは、別の意味で頭を抱えたくなる。
嘆きのあまりしゃがみ込む歌姫先輩の姿が、五条の歩幅に合わせて段々遠ざかっていくのを見て、なまえはため息をついた。
「…私、これからどんな顔で歌姫先輩に会えばいいんでしょうか…」
「普通でいんじゃない?」
「いや無理でしょ…」