第6章 夏休み
「それじゃあなまえ、またね〜」
「うん!花火大会楽しみにしてるね!」
手を振って車の後部座席に乗り込む硝子。
その車が完全に見えなくなるまで見送って… なまえは寂しげに息を吐いた。夏油と五条も午前中に学校を出て、午後までいてくれた硝子も、ついに家へ帰ってしまった。
あんなにも騒がしかったこの場所が、一気に静かになった。
入学してから、いつも当たり前みたいに一緒にいた仲間がいなくなると、こんなにも寂しいものなのか。
「まだ始まったばっかなのに…」
一人になって、数秒でこれだ。
自分で先が思いやられる。
心なしか狭くなった歩幅で、自分の部屋へと戻るため歩き出した。
一人の間、何をするか。なまえはいくつかの案を考えてはいた。
ネットに載っていた有名なラーメン屋巡り、一人カラオケ、早朝ランニング、徹夜でゲーム、その他諸々。
ただ、考えた後に気付くのだ。全部、仲間とした方が楽しいだろうことに。
とりあえず夕飯までの間、マリ◯ゲームでもやろうと部屋のドアノブをひねって、ドアを開ける。
「おー、おかえりー」
ガチャ
そして閉めた。
どうやら、寂しさのあまり幻覚と幻聴が聞こえたようだった。
軽く目をさすって、なまえはもう一度ドアを開く。
「お前さっさとこないからルイージ死にまくってんじゃん」
口にアイスを咥えながら、右手でゲームのコントローラーを操り、左手でもう一つのコントローラーをこちらへと振る。そんな、器用なことをする五条悟の幻覚が見えた。
こんな幻覚を見るほど自分の脳は重症だったかと悩むが、どうにも、リアルに見える。
「えっと……五条悟さん?」
「何、もう老眼?いいから早く操作しろって」
この自分勝手さ、間違いなく本物だ。
なまえは頭にいくつもの疑問符を浮かべながらも、そろそろと五条の隣に座り、その左手からコントローラーを受け取る。
もうすでに始まっているゲームに、慌ててマリオの後を追いながら、ちらりと隣へ視線を向ける。
「あの、話してもいい?」
「どーぞ」
「私の記憶が正しければ、五条悟さんは今日の午前中にご実家へ帰られたはずなんだけど…」
「あー。帰るのやめた」
まるで、今日は雨が降っているから外に出るのはやめたんだというぐらい軽い調子で、彼は言う。