第6章 夏休み
「え…帰省?」
一学期の度重なる任務とテストも終わり、ようやく訪れた誰もが待ち望む夏休み。放課後の教室で、いつものメンバーと何をして遊ぼうかと心躍らせていたなまえに突きつけられたのは、夏休み中、他の3人は家に帰るという事実。
思わず言われた言葉を繰り返したなまえに、「そうだよ」と硝子が返事を返す。
「み、みんな帰るの?」
「私は帰るよ。元々夏は帰るって約束してたから」
硝子の言葉に、夏油も「入学してから一度も帰っていないからね」と頷く。
夏油の隣で暑さにだるそうにしている五条も、「帰らないとうるせーからな」と面倒くさそうに話した。
楽しい夏休みの計画が崩れ去って、呆然と立ち尽くすなまえ。
そんな彼女の様子を見て、硝子が不思議そうに首を傾げた。
「なまえは帰らないの?」
聞かれて、私は…となまえは困ったように頬をかいた。
「元々両親、それぞれ単身赴任みたいものだから、家に誰もいないし…ここに残るつもり」
「そうなんだ。なまえの両親って非術師なんだっけ?」
「そうそう。普通の会社員。私が先祖返り的に術式持ってうまれたんだー」
この高校に入るまで、父方の祖母以外、みんな非術師だった。
同じ術師しかいないこの学校が、彼女にとってこんなに過ごしやすいものだとは思っていなかった。
自分以外の全員が家に帰るのだと聞き、どこか寂しさを隠し切れないなまえ。そんな彼女を見て、夏油がポンと手を叩く。
「夏休みの最終日、近くで花火大会するって聞いたんだけど。その頃にはみんな帰ってきてるだろうし、みんなで行こうか?」
「!行く!」
打って変わって、花開くように顔を輝かせる。
花火大会、花火大会!とまだ先の話だが、満面の笑みで喜ぶなまえに、提案した夏油も悪い気はせず、面白そうに笑う。
「いいね〜。花火大会なら屋台もたくさん出てそう」
「屋台!りんご飴食べてみたい!」
「はしゃぎすぎて迷子になんなきゃいいけどね」
「ならんわ!」
「って、確か東京タワーの時も言ってなかったっけ?」
やばい、前科が付いている。
揶揄うようにこちらを見る五条に、うぐっと言葉に詰まる。
でも、本当に楽しみだ。
早く夏休みが終わればいいと、なまえは世間一般とは逆の思いを抱いた。