第15章 差異
「5年前にね。」
「5年!?すごい、禁煙成功してる!絶対やめないと思ってたのに…」
「歌姫先輩に体のこと、心配されたからさ」
歌姫先輩という言葉に、なまえの頭にはすぐ、袴服姿の自分より二つ上の先輩が思い浮かんだ。
それほど自然に思い浮かぶくらい、3人は仲が良かった。
だが、歌姫が五条を嫌っていたのもあり、五条とよく一緒にいたなまえと比べれば、硝子の方が歌姫とは仲が深かったかもしれない。
思い浮かべた姿に、そっか、となまえはどこか感慨深さを滲ませる。
「硝子と歌姫先輩は、今も仲良い友達なんだね」
なんだか、未来を覗き見た様な感じがして、不思議な感覚だった。
私も生きていれば、その中に入っていたのだろうか。3人で仲良く、飲みに行ったり、遊びに行ったりしてたのだろうか。
存在しない未来を思い描いたなまえを咎める様に、「何言ってんの」と硝子の声がなまえを現実に戻す。
促される様に向けた視線の先で、硝子が彼女の瞳を見返した。
「なまえだって、そうだよ」
静かな声で紡がれた、その言葉の意味を上手く汲み取ることができず。え?と惚けた様な声がなまえの口から漏れた。
「なまえも変わらず、私たちと親友のままだよ」
その時の私は、どんな顔をしていたんだろう。
「あ……生きてたらってこと?ここの私、死んじゃってたもんね」
「そうじゃない。ここのなまえも何も、ここにいるのは今ここにいるなまえじゃん」
当然の様に、言われて。
ああ、そうか。と思う。
『ここの私』なんて別の誰かは存在しない。
今ここにいる自分こそが、『ここの自分』で。
それなら、硝子の親友は、私だ。
学生時代は、間違いなく、親友だった。
…でも、果たして。
親友と呼べる程に、今目の前に座る彼女のことを、私は知っているのだろうか。
突然浮かんだ思考に、驚いた様に心臓が跳ねた。
「なまえより先に大人になっちゃったけどさ…私はなまえのこと、親友だと思ってるよ」