第15章 差異
「…生きて、いたんですか?」
高専時代から全く変化のない彼女の姿を見れば、生きていただなんて、そんな単純なことではないと分かっているのに、七海の口から出てきたのは、らしくない冷静さを欠いた言葉だった。
「生きてたというか、時をかける少女を実践してしまったというか…」
困ったように笑って頬をかきながらも、なまえの視線は相変わらず七海に釘付けだ。
五条が七海は老けたと言っていたことを思い出していたが、それにしても。
「…本当に七海?」
「それはこちらの台詞です」
間髪入れずに、返ってきた言葉に苦笑してしまう。言われると、声は確かに七海だと思う。思うが、他に髪色以外の面影を見つけることができない。
そんななまえの考えが透けていたのか、先程まで固まっていたはずの七海があからさまに眉間の皺を深くする。
「もしあなたが本当にみょうじ先輩なのだとすれば、イレギュラーはあなたの方だということをお忘れなく」
「あ、はい。ですよねー(おお怒ってる…)」
「…それで、時をかける少女を実践してしまったとは?あなたは本当に、」
「なまえー!って、あれ。七海もいんじゃん」
聞き慣れた軽薄な声が割って入り、ただでさえ深かった七海の眉間の皺が、一際深くなるのをなまえは見た。
学生時代の印象しかない彼女にとっては、中々見慣れないアイマスク姿で現れた五条は、「迎えにきたよー」と手をひらひらさせながらなまえの隣に立った。
「2人でなんの話してたの?僕の好きなとこ?」
「おふざけは結構です。五条さん、これはいったいどういうことですか?」
「これって?なに、七海なんか怒ってる?」
本当に意味が分からないという顔をして、なまえの方に、「オマエなにしたの?」なんて全責任を負わせてみせるから、「えぇっ、私?」となまえも自信なさげに七海の顔色を伺う。
「怒っていません。不信感があるだけです。なぜみょうじ先輩が生きてここにいるのかを説明していただきたい」
「あれ?僕七海に言ってなかったっけ?」
「一言足りとも聞いていませんが」