第15章 差異
どこで付けてきたのだろうか。
真面目そうな彼とのそのギャップに、今度こそ堪え切れなかった笑いが、口から漏れてしまった。
瞬間、キーボードの上を軽快に滑っていた彼の手が止まり、パソコン画面を見ていたその顔が、ぐるりとなまえの方を振り返った。
サングラスが反射して、表情は分からないが、笑って不快にさせてしまったかと、焦りになまえの眉が下がる。
「あ、ごめんなさい。笑っちゃって」
極力反省しているように見えるよう声のトーンを落として謝ると、少し首を横に傾けて、未だ彼の首襟にしがみついている緑の葉へとそっと手を伸ばした。
そのまま、指先で捕らえた葉を、顔の前まで持ってくる。
周りに聞こえたら恥ずかしいかもしれないと、内緒話をするように声を潜めた。
「これ、ついてましたよ」
言ってから、またつい、笑ってしまう。
やばいすぐに笑ってしまうと、気を引き締めるように口元を膨らませていたなまえは、
「みょうじ、先輩…?」
目の前のその人から、呟かれた言葉に、思わず動きを止めていた。
知らず目が大きく見開かれて、目の前の人物をまじまじと見つめる。
なまえのことを、先輩と呼ぶ人間は、とても限られている。中学の時はそんな風に呼んでくれる後輩はいなかった。高専に入って、初めて後輩らしい後輩ができたのだ。
二つ下であった、先程会った伊地知に、一つ下の、灰原と七海。その3人だけ。そして、灰原はもうこの世にいない。
改めて彼を見ると、その金髪に覚えがあることに気付く。
あっ、と小さく声が出た。髪型も、着ているスーツも、私が知る彼とは似つかないけれど。もしかして、と。
無意識に、曲げた人差し指を口元に当てる。
「七海…?」
否定の言葉は、聞こえなかった。