第15章 差異
「お疲れ様です。コーヒーどうぞ!」
「ああ、ありがとう」
返ってきたお礼の言葉と笑顔に、なまえの頬も自然と緩む。
伊地知から、ディスクで仕事をしている人達にコーヒーを出す役目をもらった時は、すぐに終わりそうだとなまえは思ったが、任務の関係で人の入れ替わりがそれなりに多いここでは、コーヒーの需要が完全にストップすることは無かった。
かといって、忙しすぎるわけでもない。本当にちょうど良い役目を任されたなぁと、なまえはこっそりと伊地知を尊敬しながら、給湯室へとお盆を持って戻る。
ふと時計を見れば、あともう少しで、五条が仕事が終わる時間だと告げていた時刻になる。悟がここに戻ってきたら、折角だしココアを出してあげようかなと考えていたところに、また新しく、人が入ってくるのが見えた。
七三にきっちり分けられた金髪に、一風変わったサングラス。
この業界では、サングラスを付けるのは珍しくない。呪霊と目が合わない対策の一つとして、重宝されているからだ。
どこに座るだろうかと、綺麗にセットされた金髪を目で追いながら、手早くコーヒーをカップへと注ぐ。なまえはコーヒーは飲めないが、そのふわりと漂う香りは、嫌いじゃなかった。どこか大人っぽく、心安らぐ匂いだ。
金髪サングラスの男性が座ったのを確認して、お盆に乗せたコーヒーを持ち、席へ向かって歩き出す。
いきなり声をかけて驚かれないように、できるだけ足音が響くように歩いて、座る呪術師だろう彼の斜め後ろに立つ。カップを静かに持ち上げると、中身が溢れないように慎重に、邪魔にならなさそうなディスクの端へとそれを置いた。
「お疲れ様です。コーヒーどうぞ」
「どうも。ありがとうございます」
返ってきた、髪型と同じぐらい真面目そうな声に、笑いそうになってしまう。
忙しそうだし邪魔してはいけないと、すぐに給湯室へ戻ろうとしたところで、真っ直ぐパソコンを見つめる彼の後ろ姿に、ふと、首の襟近くに緑色の葉がしがみ付いているのを見つけた。