第15章 差異
そうして、今度こそ事の経緯をなまえから説明された伊地知は、懐かしく、そして、過去唯一優しく面倒を見てくれた先輩との再会に目を潤ませ。手厚く彼女の席を用意してくれた訳だった。
が。
何もしないでいることが、今まさになまえのメンタルをがりがりと削っていた。
思わず、吐き出しそうになった息を、グッと飲み込む。流石に、伊地知の目の前でそれをするのは失礼だと思ったのだ。
「退屈ですか?」
だが、そんななまえの心を見透かしたように伊地知は少し困った顔で首を傾げた。何のことはない、先程のなまえの呟きが聞こえただけなのだが。
「いや、そういう訳じゃ…」
退屈というのは、少し違う。退屈であること自体は、初日の今日としてはそこまで気になることではない。
問題は、今日までに積み重なった『五条悟』へのおんぶに抱っこの数々である。
「ただ、金銭的に…ちょっと…」
言い淀んで、なまえは眉をへにゃりと八の字に曲げた。住む場所と食事から始まり、携帯電話に、目玉が飛び出るような値段のブランドの服。果ては身の回りの日用雑貨に至るまで、この数日で五条悟が全て用意してくれたのだ。
彼は気にすんなってと言うが、そんな言葉のままに受け止められるほど図太くなかった。そして彼の購入する一つ一つの物が通常よりも高級品であることが、またなまえの心を疲弊させた。
任務でも何でも、とにかく働いて少しでも金銭的に自立しなければという気持ちになって。そうすれば、今ここで何もしないでいる時間というのが、ひたすら歯痒く感じた。
「金銭的に、ですか?」
「うん…今、悟にお世話になりすぎてるから、早く自分で稼げるようにならないと、って」
「五条さんは、好きでやってるんだと思いますよ。それにみょうじさんは未だ未成年ですし、そんな気にしなくても」
「うーん、悟もそう言うんだけどね。だけどやっぱり申し訳ないというか情けないというか…」