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花火 ー呪術廻戦ー

第15章 差異


「働きたい…」

意図せず口をついて出た言葉は、なまえが考えていたより大きく響いて。
慌てて口に手をやる前に、彼女の前にカチャリとティーカップが置かれた。コーヒーが飲めないなまえに配慮してあるのか、中には温かい紅茶が揺れている。だが残念なことに、なまえは紅茶も飲めない。


「大丈夫ですか?」

そう心配気に声をかけてくれた人に、慌ててなまえは背中をしゃんと伸ばして向き合った。

「大丈夫です!ありがとうございます。…伊地知、さん」

「や、やめてくださいよ!さん付けなんて!それに敬語も!みょうじさんは私の先輩なんですから!」


先輩、でいいのかなぁ?
見た目の年齢も、経験の差も、明らかに自分よりも上へいっている後輩を前に、なまえは困って首を傾げた。


なまえが11年後に現れて、5日が経った。
といっても、土日を挟んでいるため、高専に来るのはこれが2回目だ。
現在未だ立ち位置の決まらない彼女は、五条が働いている間、補助監督の方々にお世話になっていた。因みに、なまえは伊地知がいることを五条から聞いていたが、何も聞かされていなかった伊地知との初対面は中々に衝撃的だった。主に伊地知が。

なまえを、なまえの血縁者か何かかと勘違いしたところまでは仕方のない展開だったが。適当な五条が、詳しく説明もせずに当たり前のように『同級生のなまえ』として紹介したため、かつての先輩の形をした偽物が、何らかの術式で五条を洗脳したのでは、と。最悪の予想を頭に描き、慌てた伊地知が「五条さん目を覚ましてください!」と決死の覚悟で無限を纏う五条の肩に手を伸ばそうとしたところで、最強からのデコピンをくらって盛大に撃沈した。

勘違いとはいえ、最強である彼に向かっていく男気を見せた伊地知に対し、五条がかけた言葉は、「キッショ」だった。

五条のあまりの無情さと容赦の無さに、なまえは始終奥歯がずれたような顔をしていた。
これが学生時代だったならば、可愛い後輩に何をするのだと一言物申していたところだが、目の前で痛みを堪えて蹲るその人は、可愛い後輩と呼ぶには、些か年上になりすぎていて。口を出しては逆に失礼では、と伊地知が聞いたら「失礼じゃないので口を出してください!」と泣きついてきそうなことを思っていた。

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