第14章 高専
「…このケータイ、ボタンがない」
「…あー!そっか、当時はガラケーだっけ」
「なに?」
手渡された端末を見て、思わず呟いたなまえに五条が思い出した様に声を上げる。そこに出てきた単語にも聞き覚えがなく、なまえは首を傾げた。
高専で五条と家入、なまえの3人で話していた際、なまえが何かあったときにすぐ連絡できるようにと家入から連絡先を聞かれて、そこで携帯電話を持っていないことを思い出した。
携帯電話がないのは不便だと、五条の仕事終わりを待ち、携帯ショップにやってきた訳だが。
そこで、これが新作だと手の中に置かれた小さな携帯端末は、端末いっぱいに液晶画面が広がっていて、どこを探しても文字を打ったり電話に出るボタンがなかった。
スライド式でもない、と。薄いそれの裏を確かめる。
困って五条の顔を見上げれば、彼の口が弧を描いていた。完全に困っている私を見て楽しんでいるな、と。自然と目が細まる。
「それね、スマホっていうんだよ。スマートフォンの略」
「スマートフォン…?携帯じゃないの?」
「携帯は携帯なんだけどね。なまえが前まで使ってたのは、ガラケー」
「ガラケー?…ガラリと変化する前のケータイ、の略?…いや、腹抱えて笑わないでくれる?」
「ククッ…めんごめんご。ガラケーは、ガラパゴス携帯の略ね。……ちょっと、次はなんでオマエが腹抱えて笑ってるわけ?」
「いや、あははっ…悟、さすがにそれは嘘だって分かるよ。ネーミングセンスが悟じゃん」
「僕のことなんだと思ってんの」
唇を尖らせる五条に、それでも全く罪悪感は湧かない。嘘を教える方が悪いのだと決めてかかったなまえは、その数秒後に接客にきた店員からガラパゴス携帯が真実だということを聞き、思わずゾンビがリンボーダンスをしているのを見たかのような顔をする。それを見た五条がまた壁を壊す勢いで笑っているから腹しか立たない。