第14章 高専
最初は、青春に執着している五条が、その象徴ともいえるなまえを、子供みたいな執着心で振り回していると思っていた。もしかしたら、過去の後悔をやり直したいという思いもあったのかもしれない。
だが、どうやら。
それだけではなかったらしい。
(マジか…11年だぞ)
11年という年月は、長い。
過去に抱いていた恋心なんて、思い出にすり替わっても全くおかしくない年月だ。むしろそちらの方が自然だろう。
更に言えば、相手は11年前そのままの姿形なのだ。
歳の差は一回りに近い。
まさか今もまだ、なんて。
正直、それはないだろうと決めてかかっていた。
いや、もしかしたら改めて、なのかもしれないが。
こうなってくると、話は更にややこしい気がする。昔辞めた、タバコが無性に吸いたくなって。
面倒くさくなった彼女は、これ以上の思考をあっさり手放した。
とにかく硝子としては、なまえがこれから笑って過ごしてくれればそれでいい。
「…で、なまえは本当に納得してる?私のとこきてもいいんだよ?」
なまえの目を見れば、彼女の黒い瞳は、困ったように左右を彷徨う。
何となく、なまえは自分を選ばないだろうことが分かった。話してみて気づいたのだ。彼女は、未だ自分と距離を感じている。
それは、11年経て、姿形も恐らく性格も、変化してしまった自分に戸惑っているのだろう。
彼女にとって自分は未だ、親友に似た他人なのかもしれない。自分で考えて、確かな痛みが胸にはしった。あの頃、彼女の親友は間違いなく自分であったのに。
この時ばかりは、童顔で性格も未だ子供のような五条が羨ましいとまでは言わないが。憎らしくはある。もし、最初に彼女に出会ったのが自分だったなら、立ち位置は変わっていただろうか。
「あの…ありがとう、硝子。大丈夫、ちゃんと…その、納得してる、から」
「そっか。…まぁ嫌になったらいつでも言いなよ」
「なる訳ないだろ」
「どうかな」
ねぇなまえ。
私は今も、あんたを親友だと思ってるよ。
言葉にする代わりに、困った顔ばかりしている彼女の頭に、そっと手を置いた。