第4章 一ヶ月後
完全に両腕を夏油の両腕で拘束され、足が宙ぶらりんの状態では、もう逃げ出すことは不可能だろうとなまえは項垂れる。
わざと手を鳴らしながら、ゆっくり近づいてくる五条に、なまえの顔が恐怖で引き攣った。ぶっちゃけ呪いより怖い。
震えるなまえに、見た目だけ善人の皮を被った夏油が後ろから声をかける。
「なまえ、言い残したことは?」
「実は前から思ってたけど、夏油の前髪変!」
「やれ、悟」
「りょーかいっ!」
「っ〜!!!!」
五条の握り拳で頭の左右を挟まれ、ぐりぐりと力を込められる。容赦ないその痛みに、声なき声をあげるなまえ。
ギブギブとばかりに、両手でばんばんと夏油のお腹近くを叩いていると、ようやく解放された。
頭を両手でさすりながら、ふらふらと両足を地につけて、ひどいとばかりにキッと2人を睨みつける。
「いたいけな女子に対して…ありえないっ」
「知ってるかー傑。俺たちのクラス、実は男子2人じゃなくて3人だったんだって」
「ああ、そんな気はしてた」
「人の性別を勝手に変えるなっ」
「3人とも〜」
言い合いをする3人の間に、硝子の伸びのある穏やかな声が割り込む。
はっと気づいて、声の方を向けば、少し…いや、大分離れたところに立つ硝子が手を振っている。
なんであんな離れてんだと眉を寄せる五条と同じことを思うなまえと夏油。
そんな3人にはお構いなしに、硝子は口の形を強調して言葉を紡ぐ。
「う・し・ろ」
「…後ろ…?」
促されるように、振り返って。
「おまえら…!」
そこには、腕を組み、仁王立ちで立つ、夜蛾の姿があった。
気のせいか、後ろにオーラのようなものが見えて、より恐怖が増す。
「誰だ、そこのブラック塀を破壊した馬鹿は!」
「「五条(悟)です」」
「げっ」
即座に五条を売り渡した夏油となまえ。
あまりの2人の思い切りのよさに顔を歪めた五条。その頭に、天誅という名の拳骨がおろされたのだった。