第14章 高専
高専の校舎を歩くなまえは、どこか不思議な気持ちだった。つい2日前も歩いていた場所で、懐かしさなんてない。それなのに、まるで間違い探しの世界に迷い込んだみたいに、何かが違う。
例えば、傷だったり、シミだったり、物の配置だったり。
まず彼女が真っ先に足を向けたのは、3年の教室だった。つい先日まで、自分が通っていた場所。
覗き込んだそこには、誰も人がおらず、がらんとしていた。
当然だが、彼女が座っていた、机と椅子もない。そのことになんだか、言いようのない寂しさを感じて、首を振ってその場を後にする。
次に行く場所は、決まっていた。医務室だ。
最強二人組が任務でいない時、教室にいなければ、反転術式を使える彼女の親友は、よくそこにいた。
くだらないことを話して時間を潰したが、マウスを使った実験や解剖が始まると、臆病ななまえは顔を青くしてそこから逃げ出し、それを見て硝子はよく笑っていた。
つい、最近までの話だ。
知らず早足になるなまえは、よそ見をしていて、何かにぶつかった。
「あっ、すみませ、」
反射的に謝ろうと、正面を見上げた彼女は、言葉を途中で途切れさせた。
ぶつかった時、確かに一瞬、ふわっとした感触があった気がした。気がしたが。
「ぱ、ぱぱぱ、ぱ、ぱん、ぱん、」
「誰だお前、転入生か?」
「パンダが喋ったぁ!?」
ひぃっとなまえは後ずさる。
彼女の目の前には、まさしく、動物園にいる姿そのまんまのパンダがいた。誇張では一切ない。
動物園では人気者のそれも、学校の校舎内で、遮る檻も何もない場所で出会えば、正直恐怖の対象だった。何よりでかい。クマを白と黒に塗ったからといって、その迫力は消えない。
脱走、野生化、多くの情報が彼女の頭を一瞬のうちに駆け巡ったが、パンダが喋ったという事実が解析された後、一つの結論が導き出された。
はぁ、と少し落ち着いて息を吐き出す。
「…なんだ、着ぐるみか」
「本物だぞ。まぁ、正しくは呪骸だけど」
「呪骸って、夜蛾先生おとくいの…?」
「まさみちを知ってんのな。やっぱ転入生?」
「いや、転入生では、ないんだけど」